ESSAYかぐらびと

【開店】華やかなひとくち鰻を手土産に | 鰻次郎 神楽坂

2025.07.09

「鰻に、こんな楽しみ方もあるのかという、新鮮な驚きをお届けできたらと思っています。」

そう語るのは、鰻加工の最前線で焼きの技をたたき込まれ、店の味を継いだ吉田和敏さん。
吉田さんが神楽坂に『鰻次郎』を構えて、まもなく半年。ドラマの撮影現場や武道館ライブへのケータリングをきっかけに、“知る人ぞ知る鰻” としてファンを増やしつつあります。

第23回のかぐらびとでは、吉田さんから開業までのいきさつと、新たな挑戦について伺いました。

鰻次郎(MANJIRO)神楽坂  代表取締役
吉田 和敏 Yoshida Kazutoshi

大阪出身。テントサウナと外気浴が好き。新たな環境や技術にも臆せず飛び込み、地道な努力と吸収力で自分のものにしていく。仕入れ先や常連客と自然体で向き合いながら信頼関係を築き上げてきた。そうした日々の積み重ねを土台として、柔軟性と粘り強さを武器に、新たな挑戦に踏み出そうとしている。


“串打ち3年、裂き8年、焼き一生”の世界へ

鰻業界に入られたきっかけを教えてください。
「実は前職では、ダイビングのインストラクターをしておりました。その生徒の中に鰻店を営む旦那さんがいらっしゃいまして、プライベートでも親しくさせていただくように。ちょうどコロナ禍、観光業が厳しい状況になったころに、“焼き手が不足していて、自分がずっと焼き続けている”という話を旦那さんから伺い、手伝いを申し出たのが、鰻の世界に足を踏み入れるきっかけでした。店は大阪最大級の中央卸売市場内にあり、全国の百貨店や料亭、小売店などへ鰻を卸す、加工・卸専門の店舗でした。いわば、“鰻加工の最前線”。私はその現場で、毎日朝から夕方までおよそ1,000尾の鰻を焼き続ける日々を過ごしました。」
焼きの現場では、どのようなご経験を積まれたのでしょうか?
「火入れの見極めやタイミングを、文字どおり体で覚えました。僕がいた現場では、焼き上げた鰻をすぐに冷凍し、全国に出荷していたのですが、鰻は焼き加減ひとつで、解凍後の仕上がりが変わるのです。わずかな違いでも、“これ、社長やないやろ。あんたが焼いたやろ?”って、常連のプロの方々にはすぐに見抜かれてしまう。もう、それが悔しくてね(笑)。一尾ごとの個体差を見極めながら、全神経を研ぎ澄ませて焼き続けました。修行を重ねながら、“これや!”という感覚にたどり着くまでには、3万尾は焼いたと思います。気づけばすっかり鰻の世界に魅了されていました。」
独立してお店を構えられるまでの経緯をお聞かせください。
「実を申しますと、さまざまな事情で加工場が閉店し、一時的に鰻業界から離れることになりました。ただ、毎年土用の丑の日が近づくたびに、以前のお客様から“今年も鰻お願いできへん?”とご連絡をいただきまして。そのお言葉が本当に嬉しくて、あらためてもう一度この道で勝負してみようと決意し、クラウドファンディングで、大阪・泉大津に本店をオープンしたのが再出発の第一歩です。」
古民家をリノベーションした大阪本店
タレの味を引き継がれているのだとか。
「はい。ありがたいことに“あの味が好きやねん”って言ってくださるお客様が多かったもので。」

このまちで、鰻の可能性に挑む

神楽坂への出店はどのような経緯で?
「うちの鰻を気に入ってくださった方から、“東京にいい場所があるから、ぜひ来てほしい”とお声がけいただいたのがきっかけです。最初は、神楽坂とはどのようなまちなのだろうと思っておりましたが、訪れてみれば古き良きまち並みも残っており、散策したくなる風情がある。関西とは違った上品さがありながら、どこか人懐っこさも感じました。」
神楽坂店。店内だけでなく、店先の縁台でも鰻を楽しめる。
神楽坂限定『歓喜の一口おむすび』のコンセプトをお聞かせください。
「“気軽にシェアできる鰻の手土産”です。パーティーなどでうな重を人数分を用意するのは難しいこともあるかと思います。もっと気軽に、もっと多くの方に鰻を楽しんでいただける機会をつくれないだろうかと考えました。贈る方も、受け取る方にも笑顔が広がるような──そんな“喜びを分かち合える鰻”を目指しています。」

いぶし銀の黒、涼味の白

味の決め手は何でしょうか。
「やはり、焼き”  と タレ”  に尽きます。関西では、蒸さずにそのまま炭火で焼き上げる“地焼き”が一般的で、外側は香ばしく、中はしっかりとした食感になるのが特徴です。当店では火入れをしっかりめに行っていますが、同時に“ふわっとした食感”も大切にしており、一口食べたときに驚きがあるような焼き加減をお届けしております。タレは、関東に比べてやや甘めの関西ベースで粘度も少し高め。というのも、焼きが浅いとタレが落ちやすくなるからです。しっかりと脂を抜きながら、火入れの合間に何度も丁寧に刷毛を入れていく。そうすることで、タレがしっかりと鰻に浸透し、時間が経っても美味しく召し上がっていただけます。」
鰻おむすびランチセット/1,000円(税込)
「黒と白の2種類があり、どちらも、鹿児島県大隈産の大ぶりな鰻で、ひと口サイズのご飯を包んだ贅沢なおむすびです。黒は秘伝のタレと山椒を混ぜ込んだご飯で、濃厚でアクセントがある仕上がり。白は、独自配合の酢飯を使い、鰻の風味を引き立てた爽やかな味わいです。 おかげ様で、テレビやドラマの収録現場、武道館ライブなどにも差し入れとしてご利用いただき、 “鰻のケータリングなんて初めて!”と驚き、喜んでくださることもしばしば。生きた鰻を持ち込んで、その場でさばいて焼いた“鰻の焼きショー”を行ったこともあります。ロックフェスでの出店も好評でした。そういう場で召し上がられた方が後日買いに来てくださったり、“制作中のアニメで、今度、鰻回があるから”と制作現場への差し入れに使ってくださったり。そんなご縁の広がりに支えられています。」

目指すは“鰻の新しい文化”

“鰻をもっと気軽に”というお考えが印象的でした。具体的にはどのような取り組みを?
「たとえば、バターをのせて温めたり、パーティの際に出汁をかけてひつまぶし風に仕立てたりと、お好みやシーンに合わせたアレンジをお客様にご案内しております。また、お客様からのご要望もあり、6月からは『鰻で、せんべろ』や『ミニうなしゃぶ』といった“ちょい飲み”スタイルを始めました。15時から21時まで、仕事帰りにふらっと立ち寄っていただける時間帯です。」
「百貨店でのポップアップストアや、8月以降には神楽坂通り沿いに鰻しゃぶしゃぶの専門店をオープンする予定です。ほかにも、鰻の刺身やワインとのペアリングなど、従来のイメージにとらわれず、“こんな楽しみ方もあるのか”と感じていただけるような提案を続けていくつもりです。」
100年を超える老舗が軒を構える激戦区で、鰻の新しい魅力を届けるべく挑む、若き職人の華やかなひと口鰻。
今年の土用の丑の日は、ひと味違う鰻の楽しみ方を手土産にしてみてはいかがでしょう。

今回、取材にご協力いただいたのは代表取締役の吉田さん。
お店で会えたら「かぐらびと見ましたよ!」ってひと言、頼むな!

店舗情報

店名
鰻次郎(MANJIRO)神楽坂
住所
〒162-0812 東京都新宿区西五軒町11-6
営業時間
11:00 - 20:00
定休日
不定休
駐車場
公式SNS
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この記事を書いた人

かぐらむら編集局

隠れた名店や話題の最新スポットを実際に訪れ、取材しています。神楽坂を知り尽くした編集局ならではの視点で、皆さまに新たな発見をお届けします!

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