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【開店】神楽坂スイーツ新定番! ほろほろ&ミルキーのバターサンド | 菓子工房 kukka

2025.07.02

「クリームとサブレが、口の中で一緒に消えていく――そんなバターサンドです。」

サクッとした瞬間、ふわっと広がる香りと、ほろりとほどける繊細な食感。甘さは控えめなのに、ずっとあとまで余韻が残る――。

赤城下町にある『菓子工房 kukka』は、素材を活かした奥行きのある味わいを大切にしているお店です。
異色の経歴が導いた、“余韻のあるおいしさ”の秘密を、オーナーパティシエ・武田真李亜さんから伺いました。

菓子工房 kukka オーナーパティシエ
武田 真李亜 Takeda Maria

金融業界で20年以上のキャリアを積んだのち、フランス菓子の世界へ転身。数字を味方にする冷静さと、素材に向き合う情熱をあわせ持つ。「一度決めたことは、粘り強くやり抜く」という信条と、「もっと深く知りたい、もっとよいものを作りたい」という探求心は、金融の世界でも、菓子作りの現場でも変わらない。


あの瞬間にスイッチが入った

キャリアのスタートは金融業界だったそうですね。そこからどうしてお菓子の世界に?
「数字と向き合い、仲間と協力して何かを成し遂げる……そんな仕事にやりがいはあったものの、あるときふと立ち止まって、こう思ったんです。 “ 私、自分の手で最初から最後まで、何かをつくったことってあったかな? “  って。そんなタイミングで出会ったのが、神楽坂にあった伝統フランス菓子の店『セシル エリュアール(※現在は墨田区に移転)』のお菓子。 2016年だったと思います。 ショートケーキとタルト、どちらも、今まで知っていた味とはまるで違う。お菓子ってこんなにもおいしくなるんだって衝撃を受けました。」
その感動が、人生の舵を大きく切るきっかけになったんですね。
「はい。とにかくその味を自分の手で再現してみたいと思って、セシル エリュアールの鈴木祥仁シェフの元で、学ばせていただくことに。修業の日々の中で感じたのは、“お菓子づくりはおもしろい。そして奥が深い”でした。自分の手でつくったお菓子を誰かに届けて、その場で反応を言ってもらえる仕事ができたら幸せだろうな、とも。そのとき“将来自分のお店を持ちたい”という目標ができて、銀行に勤めながら、お店での修業と製菓学校に通う生活が始まりました。三足草鞋でしたけど、不思議と毎日が充実していて。あの時に基礎からじっくり学べたことが、今につながっています。」
修行時代をお聞かせください。
「“百点はあたり前、それ以下のお菓子は出すな”が口癖のシェフから、家庭用オーブンで再現するという課題を出されて。見た目が少しでも違うと、ポンッとゴミ箱に入れられちゃうんです(笑)。特に苦労したうちのひとつが、一番最初に取り組んだミゼラブルという伝統的なフランス菓子でした。今ではあまり見かけないお菓子なんですが、クリームの合わせ方も生地の焼き加減も本当に繊細。夜中に何十回も試作して……。たぶん、あえて最初に一番難しいものをやらせたんだと思います。ここで挫折してしまう人もいたんですけど、私はなんとか形にしたいという一心で取り組んでいました。不思議なことに、何度も繰り返すうちに、体が自然と覚えてくるんですよね。“あ、できるようになった”って瞬間が訪れて。ミゼラブルをクリアすると他のお菓子でつまずくことが少なくなりました。」

迷ってみたくなるまち

神楽坂との出会いや印象を教えてください。
「もともと夫が住んでおりまして。結婚して一緒に暮らしはじめたことが、神楽坂とのご縁でした。それまでは坂下の華やかな印象しかなかったのですが、実際に暮らしてみると、赤城や矢来のあたりの落ち着いた雰囲気にも惹かれるようになって。石畳の路地や坂道など、少し歩くだけで風景が表情を変えるのが楽しいですし、魅力的な個人店が点在しているのも、とても面白いなと感じました。」
『森のささやきの標本室』は、『kukka』の絵を描く、たなか鮎子先生の著書。編集は、夫・淳平さんが担当。
で、開業も神楽坂でとお考えになったのですね。
「それも大きな理由のひとつです。素材によってお菓子の味は大きく変わるのですが、こだわると価格に反映されてしまう。でも神楽坂には、それでも“おいしいものを食べたい”と選んでくださる方がいる。だから、自分のやりたいことと土地柄が、すごく合っていると感じました。それで夫に、“1階をお店にしたいから、家を建て替えたい”とお願いしたんです。ローンを払い終えて、まだ1年も経っていない頃だったんですけど(一同笑)。」

ひと口ごとに景色が変わる

バターサンドについてお聞かせください。
「実は修業時代に特に苦労したもうひとつのお菓子が、バタークリームを挟んでいるこの『アーモンドサブレ』だったんです。」
バターサンドと併せてサブレを購入するお客様も多いそう。
「当初はまったく思うように焼けなくて……それでも、やっぱりサブレで勝負したかったんです。配合は1グラム単位で見直し、材料の合わせ方、時間や温度を変えて何度も何度も試作を重ねて、ようやく“これだ”と思える食感にたどり着きました。ほろほろと砂のようにほどけるサブレです。」

「素材にも、とことんこだわりました。バターはフランス産の発酵バターなども試しましたが、最終的に選んだのは、北海道産の無加水・非冷凍のフレッシュバター。ミルキーで軽やかな風味が決め手でした。アーモンドプードルは、香り高いマルコナ産やシシリー産。ひのき山農場さんの平飼い有精卵で、味わいにふくらみを出しています。バタークリームを楽しんでいただけるように、甘さはほんのり。お客様からは“何個でも食べられる”と好評です。」
ジャムやソースはすべて自家製、チョコレートは乳化剤不使用。6種類のバターサンドは、すべて無添加で仕上げている。
人気のフレーバーはどちらでしょう?
「やはり『いちご』ですね。女峰と紅ほっぺを使い、ジャム、ピューレ、そして乾燥させて粉砕したドライいちごの3種類を、それぞれの個性が引き立つように仕立てています。相談したシェフからは“いちごは味がぼやけるからやめたほうがいい”と言われたんですが、どうしても作りたくて(笑)。“甘酸っぱさがきらめくような、すごく印象的な味”とお客様におっしゃっていただけたときは、本当にうれしかったですね。ただ、もうシーズンが終わるので……。通年でおすすめなのは『ローストくるみジャンドゥーヤ』。フランス産のくるみをじっくりローストして、そこにアマゾンカカオとヘーゼルナッツのペーストを合わせています。“深みのある、ほろ苦い余韻が好き”といったお声をいただいております。」
(左)いちご/(右)ローストくるみジャンドゥーヤ
ボウルの中にあるのはアマゾンカカオ。あふれる野趣とフルーティなアロマが特徴。

描きかけの地図をうめていく

今後の展開についても教えてください。
「“イートインスペースを作ってほしい”という声をたくさんいただいていて、実現に向けた準備をすすめています。ゆくゆくは、イートイン限定の生菓子も提供できたらと思っております。」
また新たに寄り道したいお店が、神楽坂に加わりました。香ばしい気配が、まちにもじわじわ拡散中!
ただいま焼きたてほやほやのkukkaなのです。

今回、取材にご協力いただいたのはオーナーパティシエの武田さん。
お店で会えたら「かぐらびと見ましたよ!」ってひと言、頼むな!

店舗情報

店名
菓子工房 kukka
住所
〒162-0803 東京都新宿区赤城下町22-3
営業時間
[金・土]
12:00 - 17:00
定休日
月・火・水・木・日
駐車場
公式SNS
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この記事を書いた人

かぐらむら編集局

隠れた名店や話題の最新スポットを実際に訪れ、取材しています。神楽坂を知り尽くした編集局ならではの視点で、皆さまに新たな発見をお届けします!

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