ESSAYかぐらびと

【開店】早稲田で31年の名店、その系譜を神楽坂へ | 焼鳥あかぎ

2026.02.18

「東京でも5~6件ほどしか扱いのない淡海地鶏(たんかいじどり)、そして大和肉鶏(やまとにくどり)を提供しています」
そう語るのは、“焼鳥あかぎ”店長の鈴木祐介さん。同店は、早稲田を代表する焼鳥の名店として、31年にわたり支持を集めてきた“焼鳥はちまん”の二号店として誕生しました。
焼き鳥の歴史は意外にも古く、記録は平安期の宮廷料理にまでさかのぼります。鳥を焼く料理は姿を変えながら受け継がれ、江戸時代には屋台文化とともに庶民へと広がっていきました。そして現代、また新たな流れが生まれています。素材に徹底的にこだわる、高級路線の焼き鳥。焼鳥あかぎは、その新しい潮流の中にある一軒です。
 

焼鳥あかぎ 店長
鈴木 祐介  Suzuki Yuusuke

早稲田に店を構える「焼鳥はちまん」にて、約7年間修行。独立して阿佐ヶ谷で「とりや鈴なり」を開店。現在は神楽坂で「焼鳥あかぎ」の店長を務める。


一生の仕事にするということ

まずは鈴木さんについてお聞かせください。
「飲食の道に入ったきっかけは、居酒屋でのアルバイトでした。気づけば30歳を迎え、この先の人生で、自分は何を軸に仕事を続けていくのかと考えるようになったんです。そのとき、自然に浮かんだのが焼き鳥でした。理由は二つあります。焼き鳥が好きだったこと。そして、解体、串打ち、炭火焼と、技術の積み重ねがはっきりと形になる仕事であること。自分は決して器用なタイプではありません。でも粘り強さには自信がある。だからこそ、一つの技術に向き合い、積み重ねていく仕事を選びました。」 
焼鳥はちまんで修行をと決めた背景には、どんな思いがあったのでしょうか。
「何軒か候補はありましたが、実際に食べて、純粋に美味しいと感じたことが一番の決め手です。あとは、住まいに近く、通いやすいという現実的な理由もありました。」 
修行の中で、特に印象に残っていることを教えてください。
「鳥の解体です。部位ごとに仕入れる店もありますが、はちまんでは一羽丸ごと扱います。肉の状態を見極めながら、カットの仕方や串打ちを変えていく。その基礎を徹底的に教わりました。」 
 
「炭の扱い、日本酒の知識など、焼鳥屋として必要なことは一通り学ばせてもらいました。養鶏場や酒蔵に足を運び、つくり手の話を直接聞く機会もありました。素材の背景を知ったうえで焼くこと、酒を選ぶこと。焼き鳥は料理でありながら、酒とともに完成するものだと思っています。どの串に、どの酒を合わせるのかを徹底して考える。それらの姿勢を、社長のもとで学びました。」


焼鳥はちまんは、日本酒の品ぞろえでも定評のある一軒です。焼鳥あかぎでも、その系譜を受け継ぎ、焼き鳥に合う酒が揃います。

早稲田から神楽坂へ

神楽坂で店を開くまでの経緯を教えてください。
「社長から“神楽坂で二号店を開くので店を任せたい”という話をいただきました。正直、悩みました。その時には、独立して自分の店を持っていたからです。ただ、声をかけていただいたことがうれしくて。その思いに応えたい気持ちが強くなりました。最終的には自身の店を知人に託し、焼鳥あかぎに入ることを決めました。」 
焼鳥はちまんの安田章人社長の家系は、早稲田で長く商いを続けてこられた。ご実家は明治元年創業の団子屋にはじまり、かっぱ巻き発祥の老舗江戸前鮨店“八幡鮨”へと続いていますね。そうした背景を持つ中で、神楽坂に二号店を出す。その決断には、どのような思いがあったのでしょうか。
「社長は多くを語りませんが、神楽坂に対する思いは確かにあるのだと思います。現実的な面で言えば、はちまんと自転車で行き来できる距離であることも大きいのではないでしょうか。」
早稲田と神楽坂の違いは感じますか?
「客層はかなり違います。早稲田は活気があり、よく飲み、よく召し上がる。神楽坂では食事そのものを目的に来られる方が多く、落ち着いて味わわれる印象です。お酒も控えめで、静かに帰られる方が多いですね。」
早稲田店の“はちまん”は穴八幡宮から、神楽坂店の“あかぎ”は赤城神社から名をいただいたのだそうです。土地に根差す姿勢は、店名にも受け継がれています。

 

地鶏の旨味を閉じ込める

お店づくりで意識していることは?
「淡海地鶏と大和肉鶏を、落ち着いた環境で、じっくり味わっていただくことです。」 
淡海地鶏胸皮巻き(左)/大和肉鶏(右)
それぞれの地鶏の魅力を教えてください。
「淡海地鶏は、フランス原産の地鶏と日本在来種であるロードアイランドレッドの掛け合わせ。大和肉鶏は軍鶏、名古屋種、ニューハンプシャーを交配した品種です。一般的な若鶏が40〜60日ほどで出荷されるのに対し、両者は120日という長い時間をかけて育てられます。」

「肉質で言えば、淡海地鶏の特徴は脂です。非常にすっきりとしていて、毎日食べられる脂だと感じています。一口目から旨味が立ち、噛むほどに後から滋味が追いかけてくる。地鶏=硬いという印象を持たれる方もいますが、淡海地鶏は違います。硬すぎず、柔らかすぎず、肉の締まりが良い。一方の大和肉鶏は皮が厚く、肉に弾力があります。肉汁も多く、地鶏らしい野性味がある。その個性を、紀州備長炭の強火で一気に焼き、旨味を閉じ込めます。」 
味についてお聞かせください。
「基本は塩とタレ。素材の味を邪魔しないことを一番に考えています。塩は、舐めただけでも旨味を感じられる、ミネラル分の多いもの。タレも奇をてらったものではありません。ただ、焼き続けることで鶏の旨味が少しずつ重なっていく。はちまんから分けてもらったタレも、ここで焼き続けるうちに自然と“あかぎの味”に育っていきます。」
コースの構成でのこだわりは?
「前菜や小鉢は、洋食の経験があるスタッフが担当しています。鶏に合わせて重くなりすぎないようにしたり、逆に少しコクのあるものを入れたり。日ごとに流れを組み立てています。一期一会ですね。」 
お客様の反応で印象的なものは?
「現在はコースでの提供が中心ですが、焼き鳥を召し上がったあと、コースに含まれていない部位も食べてみたいと追加注文される方が多いですね。特定の部位に留まらず、全体を味わいたくなるようです。」 

一串を積み重ねる

今後、扱うメニューや地鶏が増えるのでしょうか。
「料理の構成をいま大きく変えるつもりはありませんが、地鶏については、タイミングが合えば、新しい養鶏場とご縁があればとは思っています。」

「ただ、淡海地鶏は、社長が養鶏場へ足を運び、時間をかけて築いてきた関係の中で扱えるようになったものですし、大和肉鶏も生産量が限られており、安定して扱うには信頼関係が欠かせません。簡単に“使いたい”と言って通る食材ではないと感じています。ですので、まずは神楽坂で焼鳥あかぎとして店を続けていくこと。来てくださった方に、今日も美味しかったと思ってもらえるような仕事を積み重ねていきたい。それがいまの一番の目標です。同時に、人を育て、次の店へとつなげていければとも考えています。」
焼き鳥以外のお店を開く可能性もありますか?
「やるなら、焼き鳥です。それ以外は考えていません。」 
焼き鳥は、多くの店で食べることができる料理です。
けれど、淡海地鶏と大和肉鶏を主軸に据えた店は、東京でも多くはありません。
長い飼育期間を経て育つ地鶏を、30年以上育てたタレにくぐらせ、紀州備長炭で一気に焼き上げる。
その一串が、どんな味なのか。
焼鳥あかぎは、伝統の延長線上にありながら、いまの焼き鳥業界の現在位置を示す一軒です。

今回、取材にご協力いただいたのは店長の鈴木さん。
お店で会えたら「かぐらびと見ましたよ!」ってひと言、頼むな!

店舗情報

店名
焼鳥あかぎ
住所
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6-21 NEO神楽坂 B1F
営業時間
月~土 17:00 - 23:00
定休日
日曜日、第2・4月曜日
駐車場
なし
公式SNS
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この記事を書いた人

かぐらむら編集局

隠れた名店や話題の最新スポットを実際に訪れ、取材しています。神楽坂を知り尽くした編集局ならではの視点で、皆さまに新たな発見をお届けします!

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