ESSAYかぐらびと

波乱万丈の独立劇から神楽坂の名店へ | LASTRICATO(ラストリカート)

2025.03.26

風情ある兵庫横丁の一角に店を構える「ラストリカート」は、本場イタリアでの修行を経た蓮見雅一さんが手がけるレストランです。

オーナーシェフの蓮見さんは、レストランの他にバーやヨガスタジオを展開し、飲食の枠を超えた挑戦を続けています。
高校時代のアルバイトから始まり、波乱の独立、そして神楽坂での挑戦と、歩んできた道のりから、この先のビジョンまで伺いました。

LASTRICATO オーナーシェフ
蓮見 雅一 Hasumi Masakazu

国内で経験を積んだのちイタリアへ渡り、4年半のあいだ各地の名店で修行。
2002年11月に牛込神楽坂に「Ristorante LASTRICATO」をオープン。2010年3月、兵庫横丁へ移転し「Osteria LASTRICATO 」と「Ristorante LASTRICATO」を展開。現在はヨガスタジオやBAR蓮も経営している。


それは小さな実験室だった

“料理が楽しい”と思った最初の記憶はなんですか?
「母が料理好きで気づけば小さい頃から興味を持っていて、いろいろチャレンジしていました。こたつでパンを発酵させたり、オーブンでプリンを焼いたり、友達を呼んで一緒にピザを作ったり。楽しかったなあ、みんなで作って食べたの。考えてみれば、それが今の道につながったのかもしれません。」
飲食業界にはどのタイミングで入られたのですか?
「高校生のときに、ホテルのレストランでアルバイトをしたのがきっかけですね。高校卒業後、税理士を目指して専門学校に通い簿記の資格も取りましたが、何か違うなと。自分が心から楽しいと思えるのは料理だと気づいて、専門学校に入り直しました。しかし、簿記の勉強も今会社の経理で役立っています。」
修行時代をお聞かせください。
「当時は“技術は見て覚えるのが当たり前”で、まだ厳しい上下関係がある時代。料理長や先輩が作業するのをひたすら観察し、自分で考えて動くことが求められました。質問することも許されず、ミスをすれば厳しく叱責されることもありましたが、その分、自分で考え抜く力が鍛えられました。この経験が、イタリア修行の際には非常に役立ちました。言葉の壁があっても、料理の工程を観察しながら動けるようになっていたので、自然と技術を吸収することができました。」
イタリアではどのような経験を?
「本場の味を含めて多くを学ばせてもらいました。イタリア料理は素材の味をそのまま活かすことが多いのですが、日本では、だしのように繊細な味の作り方が求められる。帰国後料理を作った時に、日本の食材とイタリアの食材の違いもあり、イタリアの味をそのまま持ち帰っても日本では通用しなかったんです。あと、向こうは日本とは違ってシェフとの関係がフラットで、友達のような雰囲気で仕事ができたのが新鮮でしたね。」

それでも僕はやると決めた

東京で独立することになった経緯を教えてください。
「帰国後に実家の近くの千葉の佐倉のCASTELLOで働いていたときにオーナシェフから“神楽坂でうまくいっていない店があるけど、お前行くか?” と紹介されたました。ちょうど東京で勝負してみたいって思っていた時期だったので転職することにしたのですが、出勤初日に行ってみれば、ガスも電気も止まっているような状況。散乱していたFAXを拾い上げてみたら、業者からの “お金払え”って請求書でした。」
えっ、初日に?!
「そうなんですよ(笑)。でももうやるしかないじゃないですか。オーナーに電話したら“ガス開けちゃえ”って言われて、とりあえず開けました(一同笑)。」
「そこから売り上げを2倍以上にし、何とか軌道にのせたのですが、ある日、出勤したら設計士さんみたいな人がメジャーで店内を測っていて。“何やってるんですか?”ってオーナーに聞いたら、“この店、売ることになったから”って(一同笑)。そのタイミングで独立しました。」

記憶に残る一皿を

こだわりについてお聞かせください。
「まずは食材ですね。魚は三重県答志島のもので、釣り上げてすぐに神経締めした新鮮な魚を漁師から買い付けています。肉は北海道産スノーチェリバレー鴨肉など、料理に合わせて厳選したものです。また、野菜の多くは八ヶ岳から取り寄せたオーガニックな物を使っています。」
1階と2階、それぞれ特徴がありますよね。
「はい。1階はオステリアで、イタリアで修業経験を持つシェフによるシチリア郷土料理を中心に、日本の食材を使用した創作的なお料理もあります。お肉は豪快に炭火焼がメインだったり、調理の前にお客様に魚などを見せて“どれにしますか?”と会話を楽しみながら選んでもらうスタイルにしています。昔は2階でコースを食べていた常連様が、“最近あんまり量が食べられないんだよね”と言って、オステリアでアラカルトのお料理を楽しみつつワインを飲んで帰られることもあります。そんな風にカジュアルにご利用いただいています。」
「対して、2階のリストランテはコース料理がメイン。アロマフレスカで修業したシェフが少しフレンチの要素も取り入れ、日本の季節の美味しい食材を使用した創作的なイタリアンで、僕はこちらでパスタを担当し、シェフと相談しながらメニューを決めてます。
2階は接待や記念日にご利用いただくお客様が多いですね。特別な日をより快適にお過ごしいただけるよう席の間隔を広く取り、メニューは3日前までにご連絡いただければ、苦手な食材などにも出来る限り対応できますので、まずはご相談ください。」

人が集まる場所を創り続ける

昨今、飲食業界では人手不足が深刻だと言われていますが、どのような対策を取られていますか?
「少しでもスタッフの負担を減らすために、うちは週休2日制を導入しています。時にはフレキシブルワーク(単発短時間勤務)も活用し、より働きやすい環境の整備を進めています。こうした取り組みの甲斐あって、お陰様で10年以上働いているスタッフ達もおります。」
最近よく聞きますね、スポットでの働き方。
「そうですね。働く側からも、“就職を検討する際に、事前にいろんなお店の様子が知れるのはありがたい。短期間でも働いてみることで、職場の雰囲気を肌で感じられる”と聞きました。お互いにとって良い出会いにつながりますね。」
蓮見さんはヨガやバーも経営なされていますよね。
「新しいことにチャレンジしたかったというのもありますが、リスク分散の意味が大きいです。ヨガスタジオは、設備投資費用はそこまでお金がかかりませんし、飲食店と違い材料費もかからない。BAR蓮も本格的なバーというよりは、地域密着型で気軽に立ち寄れる店づくりにしています。お客様はリラックスして飲めますし、アルバイトも仕事内容はマニュアル化しているので働きやすく、一石二鳥かなと。僕は2階のお料理が提供し終わる21時くらいまではラストリカートで、少し休憩して22時半くらいから2時までBAR蓮に入っています。」
(左)ヨガスタジオ/(右) ヨガスタジオの隣にあるBAR蓮
次に挑戦したいことは?
「以前は今いるスタッフにお店を持たせる“店舗展開”を考えておりました。しかし、飲食業界は人手不足が加速しているのでリスクが大きいと思い、この先は、新しい店舗を増やすよりも、今ある店舗の質を維持しながら、より充実した運営をしていきたいと考えています。例えば、バーの定休日にお客様がお店を運営する“1日バーテンダー”イベントを企画したり、ヨガスタジオでは、バーのお客様によるライブイベントを開催したりと、場の使い方を固定せずにさまざまな用途で開放し、地域の人が気軽に集まれるコミュニティの場として活用しています。単なる飲食店やスタジオではなく、人がつながり、新しい交流が生まれる場所にしていきたいですね。」
(左)BAR蓮での1日バーテンダーイベントの様子/(右) ヨガスタジオで行われたThe Boyd & Nasty Booze のLIVE
「飲食店を開くことは簡単ですが、継続するのはとても難しいと感じています。いろいろな事を考えて、実行してダメだった事はすぐやめて頭を切り替える……の繰り返しです。オープン当初よりもかなり良くなってきたと思いますがまだまだ勉強です。」
 
時代やニーズの変化に合わせ、常に柔軟に対応しながらスタッフと共に歩み続けたいと、蓮見さんは最後に語ってくださいました。

今回、取材にご協力いただいたのはオーナーシェフの蓮見さん。
お店で会えたら「かぐらびと見ましたよ!」ってひと言、頼むな!

店舗情報

店名
LASTICATO(ラストリカート)
住所
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂4-6 神楽坂館2 1階/2階
営業時間
1階オステリア
ランチ
▪毎週木曜日、金曜日 11:30 - 14:30 (最終入店時間 12:00)
▪毎週土曜日 11:30 - 15:00 (最終入店時間 13:00)※お子様連れ限定ランチ「
▪毎月第4日曜日 12:00 - 16:00 (最終入店時間 14:00)
ディナー
▪火曜日~金曜日 17:00 - 23:00 (ラストオーダー 22:00)
▪土曜日 17:00 - 22:00 (ラストオーダー 21:00)

2階リストランテ
ランチ
▪毎週木曜日、金曜日 11:30 - 14:30 (最終入店時間 12:00)
▪毎週土曜日 11:30 - 15:00 (最終入店時間 13:00)
▪毎月第4日曜日 11:30 - 15:00 (最終入店時間 13:00)
ディナー
▪火曜日~金曜日 17:30 - 23:00 (最終入店時間 20:30)
▪土曜日 17:30 - 22:00 (最終入店時間 20:00)
定休日
毎週日曜日・月曜日 ※毎月第四日曜日ランチは営業
駐車場
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この記事を書いた人

かぐらむら編集局

隠れた名店や話題の最新スポットを実際に訪れ、取材しています。神楽坂を知り尽くした編集局ならではの視点で、皆さまに新たな発見をお届けします!

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