ESSAYかぐらびと

まちを次代に、つないでいく。|NPO法人 粋なまちづくり倶楽部

2026.11.02

江戸の地割が今も残る神楽坂は、古いと新しいが隣り合うまちです。
けれど、神楽坂らしいと語られる風景も、ただ自然に残ってきた訳ではありません。
まちを見つめ、守るべきものを考えながら、長く活動を続けてきた人たちがいるのです。

その一つが、NPO法人 粋なまちづくり倶楽部――通称『NPO粋まち』。
2026年6月、都市デザインの専門家・鈴木俊治さんが同法人の新理事長に就任しました。

第37回『かぐらびと』では、新理事長の鈴木さんからお話を伺います。

NPO法人 粋なまちづくり倶楽部 理事長
鈴木 俊治  Suzuki Shunji

有限会社ハーツ環境デザイン代表取締役、都市デザイナー。早稲田大学大学院を経て、米国カリフォルニア大学バークレー校大学院で都市・地域計画を学ぶ。帰国後は都市デザインの実務に携わる一方、複数の大学で教鞭をとり、2017年から2026年3月までは芝浦工業大学 システム理工学部 環境システム学科教授を務めた。2003年5月に設立されたNPO法人 粋なまちづくり倶楽部の活動に、同年秋から参加。2026年、理事長に就任。


鈴木さんと神楽坂

神楽坂と関わるようになったきっかけと、『NPO法人 粋なまちづくり倶楽部』に参加するまでの経緯を教えてください。
「勤めていた都市計画・環境系のコンサルタント会社が、麹町から神楽坂へ移転したのが1988年頃です。そこから5~6年ほど毎日神楽坂に通いました。会社を離れた後は米国へ渡り都市デザインを学び、現地の都市デザイン事務所での勤務を経て2000年に帰国。その後、都市デザイン事務所を立ち上げ、数年後に『NPO法人 粋なまちづくり倶楽部』が設立されたことを知りました。以前勤めていた地域でもありましたので、一度会合に参加してみようと思ったのが、『NPO粋まち』との関わりのはじまりです。活動に参加する中で神楽坂へ足を運ぶ機会が増え、地域の方々とのつながりも深まっていきました。」

「そんな折、当時、神楽坂通り商店会の会長をされており、まちづくりのリーダーであった毘沙門せんべいの福井さんから“うちのビルの部屋が空くけれど、よかったら来るか”と声をかけていただきました。家賃を尋ねると、“いくらなら払えるんだ”と聞かれまして、金額をお伝えしたら “それでいいよ” と。相場よりかなり安くしてくださったのかと思います。そのご厚意もあって、神楽坂に事務所を構えることになりました。」
2006年から2025年まで事務所があった毘沙門天前の福井ビル。
都市デザインの専門家として、神楽坂に関してこれまでどのような活動に取り組んでこられましたか。
「芝浦工業大学などで都市デザインの基礎を教える講義のほか、実際の場所を対象にした設計演習や研究にも取り組んでおり、神楽坂や飯田橋駅周辺などもそのフィールドの一つとしていました。課題を出す際に学生には、図面やネット上の資料だけで考えるのではなく、まず現地を歩くようにと伝えました。まちを歩き、時には立ち止まり、時間によって移り変わる光や風、音、匂い、人の動きを感じる。そこではじめて、何を残すべきか、何を変えてよいのかを考える。これらは、私自身が都市デザインに取り組むうえでも大切にしてきたことでもあります。」

「また、『神楽坂まちづくり興隆会』による屋外広告物ガイドラインの運用にも関わっています。神楽坂地区では、新しい屋外広告物を設置する際に事前に協議する仕組みがあり、2019年に運用開始してからこれまでに150件ほどの相談がありました。ガイドラインに照らしながら、“この部分は問題ありません”“ここは少し変えていただけませんか”といったやり取りを重ねています。法律的な強制力があるものではありませんが、小さな改善を積み重ねることで、神楽坂ではこういうものを大切にしているという感覚が共有され、まちの個性が守られていくのではないかと思っています。」

鈴木さんとNPO法人 粋なまちづくり倶楽部

『NPO 粋まち』は、神楽坂でどのような活動をしているのでしょうか。
「まちに関する調査と記録、勉強会、黒塀の補修、屋外広告物ガイドライン運用に関する協力、季節ごとのコンシェルジェによるまち歩きツアー、各種マップやまちの歴史に関する出版物の作成、『神楽坂まち舞台・大江戸めぐり』など様々な活動を行っています。活動の分野はかなり幅広いですね。」
撮影:神楽坂まち舞台・大江戸めぐり
鈴木さんは歴史的な建物を残す活動にも、関わってこられたとお聞きしました。
「一水寮やAYUMIギャラリーが登録文化財になる際の建築調査で、専門の方にもご協力いただきながら、私もその一部を担当しました。」
一水寮(右)/AYUMIギャラリー(左)
ジェインズウォークも、神楽坂で鈴木さんがはじめられた活動の一つですね。
「はい。今日よく言われるウォーカブルなまちづくりを提唱したとも言える、米国の女性ジャーナリストであるジェイン・ジェイコブズは著作『アメリカ大都市の死と生』(1961年)で、きめ細かな街路網や多様な建物用途、古い建物と新しい建物の混在などが都市の多様性や活力の創出につながると論じました。彼女の都市論は神楽坂にも当てはまると考え、その視点で実際にまちを歩いてみようとはじめたのがジェインズウォークです。世界の200ほどの都市で行われており、神楽坂でも現在まで十数年続けています。」
特に印象に残っている活動は何でしょうか。
「ユニバーサルデザインのまち歩きです。15年ほど前、新宿区内のNPOとの交流をきっかけに、車いす利用者の方と実際に神楽坂を歩く活動をはじめました。そこで、坂道や店先のわずかな段差が大きな負担になる一方で、必ずしもすべてを物理的にバリアフリーにする必要はない、ということにも気づきました。店先に商品が見えるようにしたり、お店の方が外に出て対応したりするなど、ちょっとした工夫とコミュニケーションで楽しめることも多いんです。神楽坂の景観を残しながらでも、できることはある。“坂はあっても、心はフラット”という考え方は、この活動から得た大きな学びの一つです。」
撮影:神楽坂まち飛びフェスタ

NPO法人 粋なまちづくり倶楽部の新理事長に就任

理事長を引き受けることになったいきさつを教えてください。
「山下馨さんが長く理事長を務めてこられ、そろそろ次の世代へという話が『NPO法人 粋なまちづくり倶楽部』であがっていました。相談する中で、初期の頃から関わってきた活動歴と、大学教員を退職して比較的時間を確保しやすくなった等の状況から、私が引き継ぐこととなりました。私は神楽坂で生まれ育ったわけではありませんし、現在は事務所も神楽坂にはありませんが、神楽坂に長くお世話になってきた一人として、できることをやっていきたいと思っています。」
新理事長として、前任の寺田 弘さん、山下さんから受け継いだものを、これからどのように次の世代につないでいきたいとお考えですか。
「お二方とも非常に個性的で、神楽坂への思いが大変強い方です。同じことを私ができるとは思っていませんが、『NPO法人 粋なまちづくり倶楽部』がこれまで大切にしてきた活動のあり方は、きちんと受け継いでいきたい。皆さん、時間をやりくりしながら、惜しみなく力を貸してくださいます。だからこそ、関わった方々ご自身が“参加してよかった”と感じられることが大切です。活動が一人ひとりの自己実現にもつながり、その積み重ねが神楽坂のためにもなる。皆さんへの感謝を忘れず、このあり方を次の世代にも伝えていきたいと考えています。」
黒塀補修ワークショップの様子。写真左の前から2番目が鈴木さん。NPO法人 粋なまちづくり倶楽部のInstagramより。

これからの神楽坂とNPO法人 粋なまちづくり倶楽部

神楽坂が注目され、新しい店舗や住民、国内外からの来街者も増えています。これからのまちづくりは、どのように変化していくとお考えですか。
「グローバル化が進むほど、その場所にしかない個性が大切になると思います。神楽坂でいえば、歴史や文化、地形、坂や路地、商店街などです。ただ、まちは固定された歴史や文化を見る博物館ではありません。そこで人が暮らし、商売をしている。何を残し、何は変えていくのか。都度、人々と相談しながら見極めていくことが大切と考えています。」

(出典:NPO法人 粋なまちづくり倶楽部ホームページ)
10年、20年先にも神楽坂が「未来に残したいまち」であり続けるために、『NPO法人 粋なまちづくり倶楽部』はどのような役割を担っていくべきだと考えていますか。
「神楽坂には、NPOだけでなく、商店会や花柳界など、それぞれの立場でまちを大切に思っている方々がいます。立場を越えて意見を交わし、神楽坂の価値とは何か考え、話し合いを続けることが大切だと思います。『NPO法人 粋なまちづくり倶楽部』はそのつなぎ役であるとともに、神楽坂らしさをつくる担い手の一つでありたい。私自身、神楽坂から多くを学ばせてもらいましたので、少しでもまちにお返しできればと思っています。」
撮影:神楽坂まち舞台・大江戸めぐり

神楽坂を歩いていて、『NPO法人 粋なまちづくり倶楽部』を意識する機会は多くないかもしれません。
けれど、普段目にしている神楽坂の背景には、長い時間をかけて積み重ねられてきた地道な取り組みがあります。

神楽坂らしい日常を支える存在として、『NPO法人 粋なまちづくり倶楽部』はこれからも活動を重ねていきます。

※1枚目の画像は、左から鈴木さん、「NPO法人 粋なまちづくり倶楽部」理事の日置圭子さん、「神楽坂まちづくり興隆会」にも参加されている「助六」の石井要吉さん。石井さんには、以前「かぐらびと」にもご登場いただきました。


今回、取材にご協力いただいたのは理事長の鈴木さん。
もし街で会えたら「かぐらびと見ましたよ!」ってひと言、頼むな!

店舗情報

組織名
NPO法人 粋なまちづくり倶楽部
住所
〒162-0817 東京都新宿区赤城元町3-5 カーサ奈須野305
電話
03-3260-6260
公式SNS

この記事を書いた人

かぐらむら編集局

隠れた名店や話題の最新スポットを実際に訪れ、取材しています。神楽坂を知り尽くした編集局ならではの視点で、皆さまに新たな発見をお届けします!

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