ESSAYかぐらびと

【開店】親から子へつなぐ、大館曲げわっぱ | 柴田慶信商店

2025.07.30

「毎日のごはんが美味しくなり、家族の会話が自然と生まれる“暮らしの道具”。うちが目指すのは、そんな曲げわっぱです」 
作り手の想いを直接届ける場所として、柴田慶信商店が選んだのが神楽坂でした。 
次の使い手へ、そして次の作り手へ。 

第25回「かぐらびと」では、柴田慶信商店が歩んできた歴史、直面している課題、そして未来への展望について、二代目・柴田昌正さんにお話を伺いました。 

有限会社柴田慶信商店 代表取締役
柴田 昌正 Shibata Yoshimasa

1998年、父・慶信に弟子入りし製品開発や販路拡大にも力を注ぐ。2010年、同店の代表取締役に就任。2020年からは大館曲げわっぱ協同組合理事長を務める。第39回全国豊かな海づくり大会(あきた大会)では、天皇・皇后両陛下にお手渡しされる稚魚入れ容器を製作。サンフランシスコやソノマでのワークショップ、イタリア・ミラノでの展示会など海外にも活動の場を広げ、曲げわっぱの魅力を世界へ発信している。
受賞歴:全国伝統的工芸品公募展 内閣総理大臣賞・経済産業省製造産業局長賞ほか多数。


最初の記憶は、母の背中で聞いた木槌の音

柴田慶信商店についてお聞かせください。
「創業は1964年。父・柴田慶信が独学で曲げわっぱ作りに取り組んだのがすべてのはじまりです。父は農家の次男として生まれましたが、長男の代わりに家業を担う立場で育てられました。冬場は農業の仕事が途絶えてしまうため、 糊口をしのぐ手段として、 当時の営林署(現在の林野庁・東北森林管理局 米代東部森林管理署)の下で、下刈りや伐採といった仕事にも従事していたそうです。ある日、友人から“大館には昔から伝わる曲げ物という技術がある”と聞き、冬の手仕事に向いているのではないかと関心を持つようになりました。 しかし当時は技術を体系的に学べる環境がなく、製作方法も断片的にしか残っていなかった。父は古い職人の作品を集めては一つひとつ分解し、木の性質や加工の手順を自ら検証。試行錯誤を重ねながら、独学で技術を身につけていきました。」 
代表取締役会長の柴田慶信さん(柴田慶信商店旧工場内/2011年撮影)
1998年 皇太子殿下が大館郷土博物館ご視察の際に曲げわっぱ製作実演、2021年卓越した技能者(現代の名工)に選出、2024年 秋の叙勲にて「瑞宝単光章」受章。
「私自身はというと、仕事場と生活の場が一体となっていたこともあり、物心ついたときから工場で過ごしていました。両親がいつも笑顔で仕事に向き合う姿を見て育ったせいか、跡を継ぐと意識する前から、“将来はこの仕事をするんだろうな”と思っていました。気づけばその世界に身を置いていた──そんな感覚に近いですね。」 
曲げ物には古い歴史があると伺いました。
「そうなんです。曲げ物とは、木を曲げて作る木工品の総称で、古くから暮らしの中で使われてきました。たとえば大館郷土博物館には、平安時代(915年)の十和田火山噴火で埋もれた曲げわっぱが展示されています。お隣の青森では、縄文時代の出土品も見つかっております。 ちなみに、 曲げ物で国の伝統的工芸品に指定されているのは、大館曲げわっぱだけなんですよ。」 

神楽坂で体験を届ける

東京では日本橋などに出店されていますが、次に神楽坂を選ばれた背景を教えてください。
「お客様との距離が近い場所で、ものづくりの背景まで丁寧に伝えたい……今回の出店で、いちばん大切にしたのはその点です。神楽坂は昔ながらの風情を残しながら、新しい文化も自然に受け入れているまちで、私たちが大切にしている“伝統を更新する”という姿勢と、どこか響き合うものを感じました。」 
これまでの東京の店舗では難しかったことを、今回の出店で実現なされたのですね。
「はい。柴田慶信商店は単に物を売る拠点ではなく、曲げわっぱの魅力を体感し、親しんでいただける場所を目指しています。実際に杉に触れていただくと、香りや手ざわりに驚かれる方が多いんですよ。“杉って、こんなに心地いいんだ”と。」

冷めてもごはんが美味しい理由

おすすめ商品を教えてください。
「一番よく選ばれるのは『小判弁当箱(中)』ですね。毎日のお弁当にちょうどいいサイズですし、手に持ったときの軽さや、ふわっと立ちのぼる杉の香りが好評です。お客様からは“冷めてもごはんが美味しくて、びっくりしています!”という声を多くいただいています。」 
人気の『小判弁当箱』。店にはロングライフデザイン賞やグッドデザイン賞を受賞した品が並ぶ。
その理由は、杉の特性によるものでしょうか。
「はい、杉は余分な水分を吸ったり吐いたりしてくれるので、ごはんの湿度がちょうどよく保たれるんですね。そうした木の力を最大限に活かすには、削り方や乾燥のさせ方など、ひとつひとつの工程がとても大切になってきます。使い方としては、使う前には毎回内側を水で濡らす、使用後に洗った後はしっかりと乾かすことが大切です。」
手をかけているからこそ、長く使える道具になるんですね。
「そうですね。“もう10年使っています”とか、“親から譲ってもらったんです”というお客様もいらっしゃいます。私たちも、10年後も使ってもらえるわっぱを目指して、お弁当の素材の選び方や詰め方、お手入れの方法まで、できるだけ丁寧にお伝えするようにしています。」 
左から神楽坂店の小倉さん、柴田さん、神楽坂店の日笠さん

暮らしのまんなかにある道具

曲げわっぱを取り巻く環境について、課題に感じておられることはありますか?
「やはり“担い手の確保”が大きな課題です。これは木工職人の世界全体に言えることですが、地道な作業に手間と時間がかかる一方で、続けていくには現実的な困難も多く、若い世代がなかなか職人の道に踏み出しにくいという状況です。さらに、材料の調達も年々難しくなっています。たとえば“山桜”の木皮は市場に出回らないため、これまで私と父で山に入り、自ら採取してきました。秋田の山は熊も出ますし、安全面を考えると簡単な仕事ではありません。しかし父も高齢となり、今年は山に入ることができず、採取自体を見送らざるを得ませんでした。社員に任せられるような作業でもなく、これも今後の課題のひとつです。」 
樺綴じ(かばとじ)に使われている山桜の木皮
「また、近年の世界情勢も大きく影響しています。輸入材が止まったことで、これまで外材を使っていた建築業界が国内材にシフトし、私たちが使っている材の価格も一気に高騰しました。今は多少落ち着いたものの、材料供給に関する不安は常にあります。」 
時代とともに曲げわっぱのあり方にも変化はありましたか?
「はい。伝統をつなげるには、ただ守るだけでは難しい。私たちは、曲げわっぱを芸術品や贅沢品ではなく、日々の暮らしに根ざした道具として提案し続けてきました。現代の暮らしに合うものだからこそ、持続可能だと考えています。そうした試みのなかで、今、私たちが届けたいのは、単なる器ではなく、家族のコミュニケーションを育む道具としての価値です。実際、“曲げわっぱのおかげで、家族の会話が増えました”という声をいただくこともあり、それが何よりの励みになっています。」 
『うちわ皿(小)』と『マグカップ』。どちらも海外の方に人気。
柴田慶信商店として、どんな未来を描かれていますか?
「次の作り手を育てていくこと、そして次の使い手を広げていくこと。その両方を大切にしていきたい。神楽坂店で行っている曲げわっぱ作りの体験教室を入り口に、“楽しい”から、“暮らしの中で使い続けたい”という気持ちにつなげていければと思っています。」


その想いの延長線上にあるのが、素材への新たなまなざしです。 

柴田さんが着目したのは、これまで職人のあいだで使われることのなかった、木の外側の部分“白太(しらた)”。木材加工研究所とともに検証を重ねた結果、芯に近い“赤太(あかた)”と同等の強度を持つことが明らかになりました。漆を施すことで白太の特性と美しさを調和させ、高さのある木取りが可能になる利点も生かしながら、新たな曲げわっぱの展開へとつなげています。 
白太を使った『源平』シリーズ。「美しい柾目(まさめ)に惹かれた」と、購入者からも好評。
素材を無駄にせず、見過ごされてきた価値に目を向ける。
そんなものづくりへの誠実な姿勢が、次の時代に技と想いをつないでいくのかもしれません。 

今回、取材にご協力いただいたのは代表取締役の柴田さん、神楽坂店の小倉さんと日笠さん。
お店で会えたら「かぐらびと見ましたよ!」ってひと言、頼むな!

店舗情報

店名
柴田慶信商店
オープン
2025年4月29日(火)
住所
〒162-0825 新宿区神楽坂6丁目26-6
営業時間
11:00 - 18:00
定休日
火曜日
駐車場
公式SNS
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この記事を書いた人

かぐらむら編集局

隠れた名店や話題の最新スポットを実際に訪れ、取材しています。神楽坂を知り尽くした編集局ならではの視点で、皆さまに新たな発見をお届けします!

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