第3話 青年泉鏡花が見た「神楽坂七不思議」の巻

 神楽坂と泉鏡花のつながりはとっても深い。
明治22年尾崎紅葉の小説を読んで強い感銘を受けた鏡花は、17歳で上京。牛込にあった紅葉宅を訪ねるも、勇気が出ず、辺りを歩き回っただけで帰ったと告白しています。
 二度目の上京で、意を決して門をたたき、やっとの思いで書生となります。鏡花22歳の時の作品に、『神楽坂七不思議』という文章があります。青年鏡花が、神楽坂のまちに慣れ親しんできて、友人やまちの人に見聞してきたことをユーモアをもって興味深く書いています。
 「獅子寺のももんじい」「通寺町の牛肉屋いろは」「島金の辻行燈」「絵草子屋の四十島田」などといった話が七不思議になっています。「島金」とは、今も繁盛している「うなぎ割烹 志満金」のことです。金沢生れ、金沢育ちの鏡花にとって、神楽坂の当時の風物が面白くて仕方がないといった書きっぷりといえます。最後には、「世の中、何事も不思議なり」と締めくくっています。
 また鏡花は、大正14年に『神楽坂の唄』を作詞しています。神楽坂の四季の移ろいと風物詩を取り入れたこの唄には、「清元のつもり」という作者の付記があります。毎年神楽坂の芸者衆が総出で出演する「神楽坂をどり」の会で、この唄の一節「毘沙門さまは、守り神」がフィナーレで唄われています。鏡花と神楽坂は、いまも深く結ばれているのです。
  文中の「神楽坂七不思議」は、オーディオブック・リスボ(LisBo)にて有料配信中。声優むらかみゆりえさんの朗読で聴くことができます。