大久保通りから横道に入ってすぐに、『鰹節問屋 川金』の看板が目に飛び込んでくる。 暖簾がなければ、乾物屋と間違えてしまいそうだ。「表の看板は実家から譲り受けたものなんです」とは、店長の松本卓也さん。
店長の松本卓也さん
鰹節問屋90年のこだわりを受け継ぐ 松本さんの実家は鰹節問屋だ。九州や四国から仕入れた節類を削って仕立てた品を、割烹料理店や蕎麦屋に卸していた。「削り節がおやつだったんです」と、松本さんは笑う。小さいころから、削りたての鰹節を使った食事が日常だったという。
転機は数年前、家督を継いだ叔父が他界し、問屋の暖簾を降ろしたことによる。『鰹節問屋 川金』が守り続けてきたこだわりの火を絶やしたくないという思いが、松本さんの胸に広がった。折しもコロナ禍。緊急事態宣言が発令され、松本さんが経営していたベルギービールバーを休業せざるを得なくなる。打開策を模索するなかで、“二毛作営業でうどん屋”という選択肢が浮かんできた。 本場香川での学びから得たもの 一般的な讃岐うどんとは異なるが、関東人になじみ深い鰹節をたっぷり使った出汁がいい。店で鰹節をはじめとする節を削り、香り高く、コクがありながらも、まろやかで後味すっきりの出汁に仕上げたい。香川での修行を終え、埼玉に戻ってきた松本さん。自らの強みを生かしながら試行錯誤を重ね、ついに7種類の削り節を組み合わせた特製の出汁を完成させた。 2022年、特製出汁を武器に、昼は讃岐うどん屋、夜はベルギービールバーという新しいスタイルの店を大宮で開店。今年3月には神楽坂に移転し、いまに至る。 おすすめメニュー その1 『(温・あつ)三元豚の肉うどん』900円(税込) 「川金」特製の出汁と三元豚の脂の甘さがお腹に染みる、これからの季節に食べたい一杯。コシが強く、のど越しのよい麺は、特製出汁と最も相性の良い熟成時間で作り上げた自家製麺。 おすすめメニュー その2
『(冷・ひや)とろろぶっかけうどん』880円(税込) 特製の出汁にかえしを加えたつゆを回しかけていただく。かえしのきりっとした味わいに、とろろが相まって、一気に食べてしまう一杯だ。 仕事帰りにほろ酔える店
昼は讃岐うどんがメインだが、夜はベルギービールを中心に営業している。実は松本さんはベルギービールのプロフェッショナルマスターで、協会認定の講師でもある。 美食の国として知られるベルギーには、個性豊かなビールが揃っている。『川金』でも、スタンダードなものからフルーティなビール、スパイシーなビール、さらにはマイクロブリュワリー(少量生産の醸造所)のビールまで、常時30種を銘柄専用のグラスで提供している。「まずはカジュアルにうどんやビールを味わっていただき、お店の世界観を知ってもらえればと思います。そのうえで、皆さんに喜んでもらえるよう、これからも精進していきたいです」と、松本さんは展望を語る。
秋の夜、グラスを傾けてビールの余韻に浸りながら、最後に一杯のうどんでほっとなる。心も体も温まり、明日の活力を得る――そんな夜を、ここ『讃岐うどん酒場 川金』で過ごしてみてはいかがだろうか。 【DATA】 讃岐うどん酒場 川金 住所:東京都新宿区下宮比町2-3 公式インスタグラム:https://www.instagram.com/udonkawakin 営業時間: [火・土]11:30~14:00 [水・木・金]11:30~14:00/18:00~21:00 定休日:月・日・祝日、その他不定休) |