思い出の神楽坂「ギンレイホール」




 
名画座の灯を守りぬいた「名画座ギンレイホール」
 
お馴染みだった手書きの上映作品看板
 
東京・神楽坂「名画座ギンレイホール」閉館
閉館を知った時から頭の中で、朝も夜もずっと「ニューシネマパラダイス」のテーマ曲が流れ続けています。永遠にあるとは思ってなかったが、コロナ禍という時期もクラウドファンディングでなんとか乗り越え、まだしばらくは映画ファンを楽しませてくれる、と思っていた矢先のこの発表。信じられないという気持ち、残念と言う言葉では言い表せられないショックと、「ああこれも現実」と諦めの気持ちで胸いっぱい、張り出された「閉館お知らせ」の張り紙が恨めしかった。老朽化したビル建て替えのための一時閉館。そして神楽坂周辺での移転再開を目指して、現在交渉継続中(2022年11月26日時点)です。
 
多くの人が通り過ぎた「ギンレイホール」
今までの上映作品フィルモグラフィがロビーに。懐かしい。
 
「ギンレイホール」は1974年(昭和49年)の創業。かつて都内にあった名画座が、時代とともにひとつまたひとつと消えていく中で、48年間その灯火を守り続けてきた。原田マハの小説「キネマの神様」に登場する名画座「テアトル銀幕」はギンレイホールをモデルとしたものだし、長編映画の監督デビュー前の若き森田芳光がスタッフとして働いていたのも当館だった。どれだけ多くの人が、ギンレイホールや、そこで上映された映画に影響されたかは、想像するに余りある。
 
 アカデミー賞受賞の監督さんもギンレイに!
名画座とはいえ上映するのは、1年前〜半年前くらいにロードショウ公開された作品の2本立て。場合によってはまだロードショウ公開中だったりするから、ギンレイホールで上映されないかと心待ちにするファンも多かったはず。2本立ては、社会派、家族がテーマ、アジア映画とか何かしらテーマが共通する2本で上映され、その組み合わせの妙も楽しめた。
上映後に監督さん本人を呼んでのトークショウや、監督特集のオールナイト上映は映画ファンの心をつかむ好企画だった。直近では「ドライブ・マイ・カー」でアカデミー賞受賞の濱口竜介監督が登壇してのトークが印象的だった。
 
画期的!「ギンレイ・シネマクラブ」という神の恩恵!

これぞ「神の恩恵」! 1年間好きな時に夢の国へ
 
「ギンレイホール」は1997年から「ギンレイ・シネマクラブ」という会員制システム、年会費10,000円(+税)で見放題という、ファンにとっては「神システム」を導入した。さながら定期券で改札を通るように映画館に入れる、おお!画期的、これを「神の恩恵」と呼ばずして何と呼ぶ!おかげで2本立て上映を今日1本見て、都合の良い日にもう1本見るということもできるし、好きな作品だと上映期間中に2回も3回も見る事ができる。それに財布を気にせず気軽に見られるので、今まで自分が見なかったようなジャンルの作品を見て、意外と面白かったり、新しい発見ができることは自分の世界も広がって素晴らしい。
 
入場前、外に並ぶのもギンレイならでは。
「ギンレイホール」はロビーが狭い。そのため以前は次回上映を待つ数人のお客さんだけをロビーに入れて、その後来た人は外の建物の壁に沿って並ぶというシステムだったが、その後コロナ禍の時代となってからは、完全に外に並ぶ方式となった。映画館の前に1日に何度も行列ができ、人気作の時は延々と、隣のビル外壁超えて、地下鉄降り口階段の下の方まで延びる。それが、他の通行人から見たら、何事?と思われるようで、それが神楽坂の風物詩とも言われた。また、コロナ禍以前は同じ映画ファン同士、隣り合って並んだ人と言葉交わすうちに意気投合するということもあった。ギンレイならでわの心温まる話。
 
スクリーンの幕が開く。あのワクワク感。
ギンレイは幕を閉じるか〜
 
以前の映画館には白いスクリーンの手前に左右に開く幕(または緞帳)があって、開く時の「さあこれから始まるんだ!」というワクワク感、閉じる時の「終った〜」という満足感を抱いたものです。ライト感覚の現在、芝居やレビューのような感覚は、仰々し過ぎるのかもしれませんが、映画が大切にされている感もあり何となく懐かしいものです。ギンレイホールでも、ちょっと前までは上映前左右に開き、上映後は閉じていて、いい感じだったのですが、寂しいことにいつの頃からか開きっぱなしになりました。何かの事情もあるのでしょうが、もうそれを他の映画館でも見る事無いと思うと残念です。
 
 館主加藤忠氏の言葉がすべてを語る。
「映画館は、人々にファンタジックな夢を抱かせる独特の空間なんです。映画館では、知らない者同士が暗闇のなかで同じテーマで、泣いたり笑ったり、喜んだりして、共に感動を分かち合える。そんな素敵な空間、映画館のほかにはないじゃないですか。だから映画館はなくならないし、なくしちゃいけないんです」
(キネマ旬報2022年12月号のインタビューより)
 
長きにわたりギンレイホールを守っていただいた加藤忠氏に感謝感謝です。
そしてギンレイファンみんなの気持ちだと思いますが、少しでも早く復活再開できること心からお祈りいたします。
(2022年11月26日 23:56)
 
「名画座ギンレイホール」11月27日 Final Screening
 
2022年11月27日 今日は大変な日です。
夕方ジャパンカップあり〜の、ワールドカップの日本対コスタリカ戦は午後7時キックオフ! 8時からの大河ドラマ「鎌倉殿の18人」は歴史上大事な局面を向かえているし。ほんとだったらテレビにかじり付いていないといけないのに。私にはもっと大事なことがある!
それは映画ファンに愛され、私も20年以上に渡り通ってきた東京・飯田橋「名画座ギンレイホール」48年の歴史最後の日なのだ。
 
 15時30分 飯田橋到着
さすがに最終上映には早過ぎた。入り口前にはまだ誰も並んでいないのを見届け、近くのベローチェでピーナッツサンドを食べつつ時間をつぶす。午後7時頃から始まる日曜日の最終の回はいつも空いているので、ゆったり見たい時はよく来た。でも、もちろん今日は特別な日、早めに並ばないと。
 
 16時15分 入場の列に並ぶ
壁に沿って入場者の列の7番目に並ぶ。開場時刻までまだ1時間弱もあるが、できれば前寄りの通路側で見やすい席に座りたいのでね。一番前や一番後ろ、右端や左端、人によって席の好みがいろいろなのが面白く、それによって性格も分かるかも。外で並んでる間も、ギンレイホールの外観写真撮る人、立ち止まって見上げる人がひっきりなし。
 

並んで待つうちに日が落ちた
 
17時5分 二本立ての最終の回、開場
思ったより早く時間は過ぎた。
開場。いつも会員カードを読み取り機に通してもらうだけだが、これも最後か〜
ちなみに、私の会員カードの期限は来年2023年4月6日まで。あと4カ月以上あり、ギンレイさんにその分の払い戻し請求もできるが、請求はしない。それ以上の恩恵受けてきたし、それより移転再開にエネルギーを注いで欲しい。
早めに並んでいたお蔭で、前寄りの通路側に座れた。両側を人に挟まれるよりこの方が楽なのだ。続々と入場してくるギンレイファンたちで席がみるみる埋まっていく。
 
17時25分「君を想い、バスに乗る」上映開始
二本立ての一本目「君を想い、バスに乗る」が上映開始。この作品は私の「ギンレイLOVE-8」で紹介済みで、私は三回目の鑑賞(何をやってんだか)。観客席にはいつもと違って、気を入れて見るぞ!の気迫を感じる。映画に没入して「ギンレイ最後の日」というのを忘れている瞬間もあるが、何か上映中ずっと私の胸の中に寂しさが去来する。ストーリーが進むにつれて、主人公の幼い娘が昔亡くなったことも映像で分かり、次第に観客席からすすり泣きが聞こえてくる。
 

路線バス乗り継ぎ、なぜ苦しい旅をするのか
 
18時53分「君を想い、バスに乗る」上映終了
ギンレイホールではコロナ禍になってから、一本上映終ったら続けて見る観客も含めて一端外に出ることになっている。自分の席はキープしておいて外出券を受け取って、外に出ると最後の一本「Marry Me」の入場を待つ長蛇の列。
私はベンチに走り事前に買っておいたベーグルサンドを慌て気味に食べる。30分弱という、ちゃんと食事するのには微妙な時間。コロナ禍前、休憩時間の館内で自由にのんびり弁当食べてた頃が懐かしい。良き時代だったな〜
 
19時20分 最終の一本、上映開始
ギンレイに戻り、最後の一本は「Marry Me」。ジェニファー・ロペスが、そのままスーパースターの役でひょんなことから平凡な数学教師オーウェン・ウイルソンと結婚してしまうというラブストーリー。最後の作品がこれか〜と思ったが、しめっぽい作品よりはハッピーエンドで音楽も明るい本作の方が暗くならなくて良かったとも思える。お話が最後に近くなると、あと数分でこの場所ともお別れか〜と、複雑な気持ち。
 
48年間の最終上映はハッピーエンドのお話で
 
21時14分 「Marry Me」終映
エンドロールが終わり客電がつき、夢の時間は終った。一斉にわき上がる拍手。数十年間分の拍手だ。やっぱり誰も立ち上がる人はいない。いつも通りの終映のアナウンスが流れる。スクリーンの前に館主さんかスタッフさんかが出て来て何かの挨拶があるかと思い、後ろ振り返って通路を見たりしたが誰も登場しない。そのまま数分過ぎると、ゆっくり帰り支度始める人、館内のあらゆる場所を携帯で撮りはじめる人、そして感慨深げにそのまま席や通路に留まっている人、様々な人の想いが館内に満ちて、私も胸いっぱいになる。
 

館内の写真撮り記憶に留めたい人多数
 
21時25分 最後のトイレ
帰る客がスタッフと言葉を交わし、名残惜しさの空気が充満しているロビーを脇に見ながら、私は地下にあるトイレへと階段降りる。トイレの近い私はいったい何度このトイレで用を足したことだろう。休憩時間のみならず、映画の途中で我慢できず、でも大事なシーン見逃しては一大事と、地下への階段駆け下り駆け上がりしたことも多かった。
 
21時27分 歩道にあふれるギンレイファン

大勢のファンが路上を埋める
 
外に出たら、いままで観客席に肩を並べていた人たちが、ずらり道路の反対側で、立ち去りがたくギンレイホールを見上げている。それを見た瞬間、私の涙腺も緩んでしまう。そうだよね。気持ちは一緒。外観の写真を撮る人、携帯でいまの気持ちを誰かに伝える人、静かに涙ぐんで見上げる人。100人を超える人達が同じ寂しさを共有している。
 
21時28分 館主からのご挨拶
館主である加藤忠さん始めスタッフ全員が館内から登場。拍手、拍手、拍手。
加藤さんから「長い間ありがとうございました」とギンレイファンに向けて挨拶をいただく。感謝や労いの言葉をかけてあげたい気持ちいっぱいのファン。スタッフさんたちが館内にひっこんだ後も、何かやり場の無いもどかしさ感じて、帰るに帰れない人がたくさん。こういう時、隣に立つ人に「あなたもギンレイファン。飲みに行って語ろう」とか言える性格だったら良かったなあ。私は立ちつくすのみ。
 

館主からのご挨拶。スタッフのみなさんも涙。
 
余談ですが、館主である加藤忠さんは、千葉県成田市で不動産業を営まれる方で、縁あって前経営者の後を引き継ぐことになった。もうからないと言われている映画館を引き受けたのは、映画にロマンを感じたからだという。今のお金持ちの方もロケット飛ばすばかりでなく、見返りは少ないかもしれないが、どうか映画などの身近な文化事業にも目を向けて欲しいと願うのは私ばかりではないはず。
 
21時40分「お疲れさまでした」
歩道で建物見上げたまま10分以上過ぎると、人もまばらになってきた。帰り支度をした館主さんスタッフの皆さんが出て来た。このまま解散されるのか、打ち上げにでも行かれるのか。私も、この場を離れがたいが、地下鉄に向かう。ちょうど皆さんのすぐ側を横切ることになったので「みなさんお疲れさまでした」と一言伝えることができた。ほんとはもっともっと溢れるほど言いたい事あったけど、少しでも
自分の気持ちを言葉にできてほぼ満足。
 
去りがたし、思い出深いギンレイ
 
そして映画は続く
仕事帰りにふらっと立ち寄ったり、感動した映画だと友だちを誘ったり、街の喧噪を離れて一人になりたい時、神楽坂での会食の後に一息つきたい時などなど、どんな時も自分の心に寄り添ってくれる心のオアシスのような場所でした。
 
見ず知らずの人たちですが「あ、またあのおじさん来てる。ほんと映画好きなんだなあ」「若いカップル、初めてのデートかな」と同じ映画を見ようとする人たちから、その人の人生を感じたりもしていました。映画館に来たのは一人で、真っ暗になれば孤独とも言えるけど、同時に起きる笑い声、驚きの声、すすり泣き。映画館は孤独でもあり孤独でもない不思議な空間です。
 
上映が始まると一瞬にして、行ったこともないメルヘンのような町並み、異境の絶景、宇宙空間へ見る人を運んでくれます。美男美女を眺める喜びのみならず、人生を学び、社会や歴史を学ぶことができ、見えないけれど心の財産となります。

 

明日からはこの灯も無くなる
 
名画座はシネコンともまた異なる空間です。シネコンは人の顔が見えず、何か味けないのです。ギンレイというこんな素敵な場所が身近にあり、気軽に行けたというのは何と贅沢なことだったことか。今更ながら痛感します。
そして少しでも早く別の場所での営業再開を心より祈るばかりです。
 
長い間たくさんの感動をいただきました。
ギンレイホールの館主加藤忠様、スタッフの皆様
ありがとうございました。

私の「ギンレイLOVE」はこれで一段落ですが、
また別の形で映画については書いていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。(2022年11月28日 17:04)

 
 
ドキュン(グラフィックデザイナー) 
noto:https://note.com/cinema_zakuzaku
ドキュン氏の許諾のもと、noteより転載させていただきました。ご厚意に感謝いたします。



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