あわただしい師走。忙しい季節だからこそ時間をつくって心が豊かになるティータイムはいかがでしょう? 東京理科大学のサイエンスカフェで6年間地元のお菓子を提供してきた神楽坂のお菓子通、鈴木厚子さんを囲んで座談会です。(撮影:田邊美樹)
一期一会のお菓子たち
編集部東京理科大学では月に一度、講師を招いて「サイエンスカフェ」を開催しています。そこで鈴木さんは、毎回テーマに合ったお茶菓子をコーディネートしていますね。何回目になりますか?
鈴木もう6年目、59回になります。
編集部どうやってお菓子を選んでいるのですか?
鈴木日頃、神楽坂を行ったり来たりしながら自分で出会ったお菓子がありますから。すでにそれは何代目かのお菓子でもあるし、新しく作られたお菓子もあるんですけど、テーマが決まると結びつく接点を設けて常々考えています。
編集部創作菓子もありましたね。
鈴木最初の創作は、萬年堂さんの宇宙菓子です。JAXAの相馬央令子さんが講師の回に、潔菓というお菓子を。12代目が創作され、女将さんが菓銘をつけてくださったんですが、創作菓子は本当にその日限りの一期一会のお菓子ですね。
愛らしい和菓子の世界
編集部季節の和菓子を見るとつい買ってしまいます。ハロウィンやクリスマス限定の上生菓子なんか可愛くて。
鈴木それは行事菓子でもありますね。クリスマスには和菓子屋さんでは、とてもかわいい和菓子をお作りになっています。今時の若い方たち、女性には非常に愛らしく映るんじゃないかしら。
編集部神楽坂の和菓子職人についてお話いただけますか。
鈴木五十鈴さんは二代目です。先代のお母様を存じ上げていまして、今のご主人とは子どもの幼稚園の頃からのお付き合いです。お願いしたい時は、「甘納豆」と「神楽坂饅頭」ですね。五十鈴さんは小豆が本当にすごいです。
編集部梅花亭の四代目は絵を学んでいた人で、季節の花の絵を描いているのを見せてもらったことがあります。彼は平成28年度の「東京マイスター」に認定されています。(平成29年の2月には外務省「日本ブランド発信事業」でイギリスに派遣されている)
鈴木手技の切れ味みたいなものは、梅花亭さんの彼には本当にありますね。とにかく黙々と手を動かしている方です。今、若い方にも指導なさっていますよ。祖父から職人として教わったことを、姿勢として教えてらっしゃるんじゃないかなと。
編集部萬年堂には有名な蒸し菓子がありますね。
鈴木祝い菓子として「御目出糖」とお礼の時の「ありが糖う」ですね。よそにない蒸し菓子として、銘菓だと思います。フランスの友人は、コーヒーにも紅茶にもよく合うと絶賛していました。
ヨーロッパ、本場の味
編集部クリスマスの行事菓子といえば、シュトーレンがあります。
鈴木6丁目のベッカーのシュトーレンは絶品です。ミュンヘンにダルマイヤーという老舗食品店があるんですが、その近くのパン屋さんでベッカーのご主人は修行したと伺いました。(2021年6月14日閉店)
編集部まさに本場の味ですね。製法もいろいろ研究されていますよね。
鈴木以前、私の息子がドイツに留学していまして、帰国のたびにシュトーレンを買ってきてくれたんです。でもベッカーさんのシュトーレンを知ったら「もう買ってくる必要ないじゃない」って。(笑)
編集部サイエンスカフェでもシュトーレンを出していますね。
鈴木あの時は時間がないのに、無理を承知でお願いしたんです。本当に失礼な話です、シュトーレンを作るのは大変って知っていますから。でも欧州時計塔の旅のお話で、時を刻むお菓子が欲しかったんです。相談した時に、息子の話も聞いていた上で、「わかりました。明日お休みだから、仕込んでやれば間に合うからやりましょう」と言ってくれたんですよ。シュトーレンを介在にして、ダルマイヤーの話とかドイツパンの話とか、もうひとっ飛びに。それが嬉しくてなりませんでした。家族のお菓子として残りましたね。
編集部家族のお菓子、受け継がれていくもの。他にそういったものはありますか?
鈴木レ・グルモンディーズのキッシュですね。前に大久保通り沿いにあったフレンチダイニングのお惣菜店です。ご主人のピーターさんは日仏学院(アンスティテュ・フランセ東京)ラ・ブラスリーの元マネージャーさんでした。彼が子どもの頃、週末におばあちゃんの所に行くと出てきたその味が、楽しみだったと。それがピーターさんのキッシュには詰まっていて、季節のキッシュを手作りしています。そして、ここのマカロンは本当にかわいいです。
編集部味覚が記憶や体験を蘇らせて、何かを共有できる……素晴らしいです。
鈴木そういうことがある町が、私にとっては神楽坂です。お菓子そのものから、自分の中にあるものが掘り出されるわけですよね。だから本当に嬉しいですね。ああ出会いたかった君に、という感じです。
滋養強壮、ほっとドリンク
鈴木神楽坂には2人の第一人者の方のお店があります。テオブロマの土屋さんはショコラ界の先駆者、トップショコラティエです。それからフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受賞されたル・ポミエのマドレーヌさん。お二人にはサロン・ド・ショコラでお会いしますし、サイエンスカフェでもそれぞれ、クレームマングー、エクレール・シアンをお出ししました。エクレール・シアンは犬のエクレアという意味で、マドレーヌさんの愛犬ファニーがモチーフなんです。
編集部土屋シェフは多くの受賞歴があり、九条葱や昆布をスペシャリテに使ったりと常に挑戦し続けている方ですね。第1回目のサイエンスカフェが、テオブロマでしたね。
鈴木共通の友人がいるんです。もともとはフランスにパティシエとして行かれて、それからチョコに感銘して、この美味しさを日本にも広めたいとショコラティエにシフトしたと伺いました。テオブロマのショコラドリンクは、冬の飲み物にとてもいいですよ。
編集部冬のパリは底冷えするので、かつて旅行中、心底癒されました。温まりますよね。
鈴木そうですね。ホットワインとかホットチョコレートは、家庭でいただく滋養のための飲み物です。松屋さんの葛湯も一緒です。葛湯は風邪のときにも効きますからね。松屋さんの葛湯は本当に質が高いですから。
編集部葛根湯は、葛の根から取りますね。甘酒がホットワイン、葛湯がホットチョコレートといった比較もできるかもしれません。どこの国にもそれぞれこの時期に飲める家庭の味があるんですね。
鈴木あと、紅茶というと外国産地と思われるでしょうが、もともと、日本にもあったわけですよね。楽山さんの和紅茶は、自分用でもギフトとしてもいいと思います。和紅茶はなんにでも合いますよ、和菓子でも洋菓子でも。
珠玉の大人ティータイム
編集部神楽坂ならではの、大人のお菓子といえば?
鈴木ACHOさんのすばらしいセンスが詰まっている大人のプリンです。ネーミングと中身にご夫妻の遊び心とセンスが光っています。ラズベリーとレアチーズの「モンロー」は個人的に特にお気に入りです。食べ方から包装から、いと愛らしい。お二人のプリンに対する思いがわかるんです。どのように頂いたらお二人がつくる最上の味を楽しめるかというのを。その愛が伝わるんですよね。
編集部裏通りにあるので、わざわざ買いに行く、その行程もいいですよね。
鈴木そうですね。それからアグネスホテル(2021年3月31日閉館)のル・コワンヴェール(営業継続中)さんのギモーブという四角いマシュマロ。そしてアグネスシューは、サイエンスカフェで星がテーマだった時に、星空のように見えたのでお出ししました。皮がパリッとした焼き方で、中にカスタードがたっぷり入っています。アグネスホテルのティーラウンジは素敵ですね。お好みのお菓子をル・コワンヴェールで選んで一緒に紅茶をいただくとか、エレガントなティータイムが楽しめます。
編集部お菓子愛が尽きませんね。
鈴木神楽坂でものを作られている方は、こだわるだけのものをご自分が体感して、それを伝えたいという思いで一皿や一品に凝縮、投影されているわけでしょう。ほっと一息、お菓子で和む幸せなひとときが「人」と「人」とを結びつけてくれます。これまで20年ほど神楽坂の方々とのご縁をいただいており、お菓子を通して訪れる方との架け橋になれましたらと願って、作られる方々のお菓子愛「菓楽坂」に感謝をしております。
いいだばし萬年堂
住所|東京都新宿区揚場町2-19 徳ビル1階
お問い合わせ|03-3266-0544
10:00-19:00、土曜日-17:00
定休日|日曜日、祝祭日
URL|http://www.omedeto.co.jp/
五十鈴
住所|東京都新宿区神楽坂5-34
お問い合わせ|03-3269-0081
営業時間|9:00-19:30
定休日|日曜日、祝祭日
URL|http://isuzu-wagashi.co.jp/
梅花亭 神楽坂本店
住所|東京都新宿区神楽坂6-15
お問い合わせ|03-5228-0727
営業時間|10:00-20:00
URL|http://www.baikatei.co.jp/
梅花亭 ポルタ神楽坂店
住所|東京都新宿区神楽坂2-6 PORTA神楽坂1階
お問い合わせ|03-3235-0808
営業時間|10:00-20:00
(閉店)ベッカー
住所|東京都新宿区神楽坂6-8 3階
お問い合わせ|03-3513-7866
営業時間|11:00-20:00
定休日|火曜日、水曜日
URL|http:/
レ・グルモンディーズ
住所|東京都新宿区揚場町1-12 オーララビル1階
お問い合わせ|03-5228-6728
営業時間|11:00-21:30、土曜日-20:30、日曜日・祝祭日-17:00
URL|https://lgdfrenchdining.com/
ジェラテリア テオブロマ
住所|東京都新宿区神楽坂6-8 ボルゴ大〆1階
お問い合わせ|03-5206-5195
営業時間|10:30-19:30
URL|http://www.theobroma.co.jp/
(閉店)ル・ポミエ 神楽坂店
住所|東京都新宿区神楽坂6-58-2
お問い合わせ|03-6280-7584
営業時間|10:30-19:30
定休日|水曜日
URL|http://www.lepommier-patisserie.com/
東京松屋本店
住所|東京都新宿区神楽坂6-8 ボルゴ大〆102
お問い合わせ|03-3269-4192
営業時間|12:00-17:30
定休日|水曜日、日曜日、祝祭日
URL|https://www.yoshinoshui.com/
楽山
住所|東京都新宿区神楽坂4-3
お問い合わせ|03-3260-3401
営業時間|9:00-20:00、土曜日9:30-、日曜日・祝祭日10:00-18:00
URL|https://www.rakuzan.co.jp/
ACHO
住所|東京都新宿区矢来町103
お問い合わせ|03-3269-8933
営業時間|11:00-19:00、日曜日・祝祭日11:00-18:30
定休日|火曜日・第3水曜日
URL|http://achocafe.com/
(閉館)アグネスホテル東京 (営業継続中)ル・コワンヴェール
住所|東京都新宿区神楽坂神楽坂2-20-14
お問い合わせ|03-3513-7612
営業時間|10:30-19:00
定休日|月曜日
URL|http://www.agneshotel.com/
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