
地ビール、地サイダー、醤油、オリーブオイルをめぐる小さな旅
神楽坂ブームで、まちの名前が全国区になってから、神楽坂土産やオリジナル商品を求める傾向が強まっています。一方、観光地的な要素も多く、全国で人気の名産品の集積地のような一面もうかがえます。神楽坂で、いま、どんな商品が話題にのぼっているのか? 普段から身近に味わっている地ビール、地サイダー、醤油、オリーブオイルの4つに焦点を絞って、編集部で体験的考察を試みました。コンセプトは、「迷える神楽坂」。大いに迷って、神楽坂でいいものと出会ってみませんか?
迷える地ビール
北の大地の天然水は奥が深い!

ひと口に地ビールといっても、誕生の裏側にはさまざまな物語があり、数々のドラマも生まれています。1994年の規制緩和によって、増え続けた地ビールブームは、最盛期に300社を超えましたが、今では約200社に。それだけに現在も生産しているのは、規模は小さいながらも実力派ばかり。
北(北海道、青森、秋田、岩手)の名産品を集め、生産者と消費者を繋ぐ北のプレミアムフード館(以下、北プレ館)が今年4月に神楽坂にオープン。約26種類の地ビール、発泡酒が勢ぞろいしました。そこで猛暑が予想される夏を前に、北プレ館での地ビールの試飲会&取材の会を企画しました。1番目の迷いは、地ビールです。
北プレ館の1、2階は地元名産品のコーナーで、3階はカフェです。そのカフェの中央には樹齢数百年の巨樹の切株のような大テーブルがで~んと据えられ、すでに地ビールや発泡酒が並べられていました。どれも、北海道、北東北の銘柄ばかりです。
最初に栓を開けたのは、奥入瀬ビール(青森県)。世界遺産となったブナの原生林を背景にもつ奥入瀬の水源の水を使用しています。ヴァツェルンとダークラガーの2タイプがあり、本場チェコ製プラントでていねいに製造しているビールです。ダークラガーをひと口含むと、香ばしさが広がりキレのいい味でした。う~ん、旨いです。
試飲会には、ご存じ神楽坂ビールを7年前に立ち上げた伊東宏祐さんも参加。北のビールと一緒に試飲しました。神楽坂ビールは、いわばご当地ビールで、中味は東北福島のビールメーカーが製造していて、そのキレとコクの良さには、皆うなづいていました。
次は、田沢湖ビール(秋田県)と大沼ビール(北海道)。どちらも大自然に恵まれた山麓の天然水を使用。北プレ館には、室内に大きなモニターがあり、いつでも北海道や北東北の旅の壮大な映像が映されているので、まるで現地の空気の中で地ビールを飲んでいるような気分にさせてくれます。紅KOMACHI(秋田県)という仙北地方産のお米、秋田こまちを厳選して使用したビールもありました。こちらは、ふくよかな味わいで、のど越しもなめらかでした。
北の大地の天然水は奥が深い!


試飲で参加者を一番驚かせたのが、流氷ドラフト(北海道)。これは発泡酒でビールではありませんが、注いだときの色にびっくり。色鮮やかなブルーだったのです。仕込み水には、網走の流氷を使い、色には天然色素のクチナシを用いています。
盛岡の名桜、石割桜から採取した酵母を用いて醸造した福香ビール(岩手県)には、開発者の強い願いを感じました。この酵母は、東日本大震災で被災した北里大学海洋バイオテクノロジー釜石研究所のがれきの中の冷蔵庫から見つかったのです。福香は、復興にかけたネーミングで、売り上げの一部は、三陸漁業の復興にあてられています。
試飲会を兼ねた取材は、当初90分程度を予定していたのですが、途中から、北プレ館の社長も参加され、青森名産のりんごジュース5種類飲み比べなどの楽しい企画が次々と飛び出し、3時間におよぶ熱い試飲会は大盛会のうちに終了。次回は、ぜひ日本酒でよろしくお願いいたします。


迷える地サイダー
全国から草の根わけて集めました!

ラベルやボトルは、レトロでモダン。栓を開けてひと口含めば、どれもちがう味。炭酸がはじけ、後からなつかしい風味が広がるかと思えば、鮮烈な柑橘類の風味が残る、初恋のような切ない香りが鼻先に浮かんで消える、あるいは言葉にはできない未知との遭遇を体験する。このお店にある地サイダーは、約50種類。もう、いろいろあり過ぎてわけがわからないほど迷う。この夏、仕事の一区切りに、猛暑をいやすのに、どの一本をあなたは選びますか? 「この店」は、神楽坂下の老舗そば「翁庵」の右脇階段から地下一階に下りた「和飲和ん」というお店。バーのような居酒屋で、オーナーの内田雄一さんは、卓球の全国大会で日本一になったという経歴の持ち主です。
本当は日本酒と焼酎の種類を誇りたい!

そもそも「和飲和ん」の品揃えは、サイダーより初めに日本酒から始まっていました。全国47都道府県すべてから一銘柄以上の日本酒を取り寄せたいと。ところが焼酎が本場の鹿児島県だけは日本酒メーカーが見つからなかったのです。しばらくして鹿児島県の浜田酒造さんが40年ぶりに日本酒をつくることになり、彼の思いは遂げられました。
そしてお酒の飲めないお客様には、別の飲み物を揃えたいと思い、その頃ブームになり始めていた地サイダーを思いついたのでした。日本酒で達成した思いを、今度は地サイダーでと考え、やはり47都道府県から一銘柄以上仕入れようと調査を開始。ところが、案外この目標は、そう簡単にはいかなかった。今でこそ地サイダーは、ネット上で調べられるものの、当時は各地の自治体の産業課や観光課に電話し、あらゆる手を尽くし、全国草の根をかき分けて探し出したのが、この店のサイダーメニューなのです。なんとか全都道府県から仕入れた地サイダーは、24本入りの段ボールケースに納まって約50箱、店内いたる所を占領して困ったといいます。
全部のサイダーはとても紹介できないので、ここでは面白そうなものだけを紹介。「和飲和ん」の店内でなら、ほんとに迷えるほどの種類です。

東京都新宿区神楽坂1-10 会田ビルB1階
迷える醤油
基本は6種類のタイプを知る

人の味覚は、幼少の時に食べてきたものによって形づくられるといいます。自分が生まれてきた土地に昔からどんな食材や調味料が流通していたのか、それによって私たちの舌は決まってしまいます。果たして醤油もその一つ。ところが旅や転居によって、異なる醤油文化圏に入ると、その違和感に気づかされます。
たとえば東京生まれ東京育ちの私は、醤油といえばキッコーマン、ヤマサ、ヒゲタぐらいしか知らなくて、全国には1400もの醤油蔵があるなんて思いもよりませんでした。いまでは全国の醤油蔵の醤油が神楽坂6丁目の雑貨店、神楽坂プリュスというお店で手に入るのです。とはいうものの、一体どう選んだらいいのか。「迷える神楽坂」の三番目は、お醤油です。
神楽坂プリュスは、食のワークショップや文化イベントなどが頻繁に企画されるユニークなお店です。ここには100mlの小瓶に入った職人醤油が約50種類そろっています。なぜこれほど多くの種類の醤油が必要なのか? 利き酒ならぬ、利き醤油ができなくては選ぶこともできないのでは? と思い、職人醤油を開発した高橋万太郎氏に、初心者でもわかるようにと、醤油選びのコツを教えていただきました。
職人醤油は、最初に8銘柄からはじめ、現在では80銘柄の醤油がそろっています。高橋さんが一軒ずつ蔵元に足を運び、つくり手である職人の方々に話を聞いて、納得したものを一銘柄ずつ増やし、80銘柄までになるのに約10年の歳月がかかったのです。神楽坂プリュスではその中から特に人気のある約50銘柄に絞って販売しています。
50銘柄といっても、醤油には種類があります。大きく分類すると6種類。色の淡いものから、白醤油、淡口醤油、甘口醤油、濃口醤油、再仕込醤油、溜醤油。この6種類は製造工程の違い、生産地のちがいなどがあり、料理や素材によって相性があります。一番よくつかわれているのが濃口醤油で、全国で流通している醤油の8割を占めているのがこの醤油。自宅用なら、自分のよくつくる料理や素材に相性のいい醤油を、贈答用のセットならば、贈る相手の出身地の蔵元を入れて組み合わせるのも手です。
基本は6種類のタイプを知る

店内で試食(試飲?)ができる時は、(神楽坂プリュスのワークショップならできます)次の3つのポイントでチェックを。色と香りと味。色は、透明なガラス瓶に入れて光をかざした時、きれいな赤色をするものがよいとされています(溜醤油は別)。香りは、食欲をそそるこうばしいものがよく、花や果物など様々な香り約300種類以上といわれています。そして味は、うま味、甘味、酸味、塩味、苦味が一体になっているので、自分の好みを見つけることが大切。素材によって、生で、熱を加えて、それぞれデリケートに反応します。だまされたと思って、バニラアイスに香川県の鶴醤(つるびしお)をかけていただいたら、結構なお味でした。迷いながら、選ぶたのしみをぜひお試しあれ。

迷えるオリーブオイル
神楽坂で迷ってえらぶ、100%オリーブ果汁

90年代終わりの“イタめし”ブームを経て、昨今の健康ブームですっかり市民権を得たオリーブオイル。かつては調理用の油としての位置でしたが、今では“オリーブのジュース”とまで表現され、フレッシュで美味しいオリーブオイルを簡単に手に入れられる時代になりました。しかしながら店頭には何種類ものオリーブオイルが並び、産地もいろいろ、価格もいろいろ、(人生もいろいろ!?)…。一体どれを選んでよいのか迷ってしまう人も多いのでは?
初心者にはやさしい価格で名品を
明治創業の神楽坂スーパーキムラヤ。良いものをどこよりも安く消費者に届けたいとの思いで選び抜かれたオリーブオイルは20種類近くにものぼります。その中でもキムラヤのおすすめはカリフォルニア産バリアーニ グリーンオリーブオイル。広大なカリフォルニアの土地でオリーブを栽培し、たくさんの人に自分らの作るオイルを味わって欲しいとの思いで、イタリアからカリフォルニアに移住してきたバリアーニ一家。夜明け前に摘んだグリーンオリーブを収穫後4時間以内に搾油するというこだわりぶり。あとを引くスパイシーな辛みと苦みが特徴です。もう一つのおすすめはアルドイノ フルクトゥス。金色のホイルに大切そうに包まれたボトルをみなさん一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。北イタリア リグーリア産のこのオイルはマイルドでフルーティーな口当たりでとても使いやすく、オリーブオイル初心者にもおすすめ。素材の味を引き立て、和食にもよく合う一本です。月に一度のセールでは破格のプライスで手にすることができるので、その機会にぜひ手に取ってみては。
神楽坂でイタリアに出会う、作り手のみえる逸品

商社ジャパンソルトが経営するアンテナショップ ドルチェヴィータでは厳選されたオリーブオイルに出会うことができます。産地に何度も赴いて生産者との信頼関係を第一に考えているそう。そんな熱い思いの伝わるオススメの一本は、南イタリア シチリア産タッリアーノ。青々しく軽やかでフルーティーなこのオイルはイタリア料理にはもちろん、お醤油と一緒に冷奴で味わってみて欲しいとのこと。是非みなさんもお試しあれ。ドルチェヴィータは、たくさんの本格イタリア食材を取り扱っているので、オリーブオイルと食材のマリアージュを考えながら買物するのも楽しそうですね。
まだまだ紹介したいオリーブオイルはたくさんありますが、神楽坂でのお買物途中にオリーブオイル選びに迷ったら、これらの“おすすめ”を参考に“オリーブオイルを選ぶ楽しみ”を味わってみてはいかがでしょうか。
今回ご紹介したように、オリーブオイルと一言で言ってもタイプはいろいろ。マイルドなオイルはオールマイティーにどんなお料理とも相性抜群で、青々しいグリーンタイプのオイルは魚介やサラダなどに、苦みや辛みの強いオイルはお肉料理などにと、お料理によっていろいろと使い分けてみるのも楽しいですよ。
東京都新宿区神楽坂6-8
TEL03-3235-7780
オリーブオイルをもっと楽しむワークショップ
Everyday Olive Oil
取材:AISO オリーブオイルソムリエ 古庄美智世

毎年、秋が近づくとそわそわしてきます。オリーブの実は順調に成長しているかな? 天候は大丈夫かな? …こうして、私の中でオリーブの収穫までのカウントダウンが始まります。昨秋のオリーブ収穫の旅はシチリアとプーリアへ。プーリアのサントーロ農園は家族経営の小さな生産者。最近は若い息子が後を継ぎ、クオリティーの高い美味しいオイルを作ることに情熱を注いでいます。そんな彼らの作るオイルはまさにオリーブのジュース。
イタリアでオリーブオイルソムリエの資格を取得した私が、この秋から神楽坂プリュスで開催するワークショップではサントーロ農園のオイルを味わうことができます。9月はイタリアマンマ直伝手打ちパスタ、10月は大分産カボスでカボス胡椒を作り、オリーブオイルとの活用方法も伝授、12月にはこの時期だけ味わえる貴重な搾りたてのオイルを使ったWSなど、毎回テーマを変えて開催。たくさんの方に気軽に参加してもらいたいので、どれもお手頃な参加費で、短時間なのに“なるほど〜!”と楽しめる内容です。