岩波ホールで公開中の映画「リンドグレーン」を観てきました。
一言でいうなら、Mycket bra!
映画は、おそらく忠実に再現したであろう書斎に座る年老いたリンドグレーンの背中を写したシーンから始まります。
次に子ども達から届いた手紙を丁寧に封を切り、次々と机の上に広げてゆくシーンが続きます。それに子どもが作家に当てて書いた文言がナレーションで流れます。子ども達の言葉はみな率直で正しい。
「本当だったんだ」と思いました。
生前のリンドグレーンに実際に会い、そして2度手紙を作家からもらっている女性から聞いていたのです。
「リンドグレーンは子ども達の手紙をすべて読んで、そして返事を書いていたんです」と。
書斎には子ども達から届いたたくさんの手紙が袋に詰められておいてあります。
原題は、Ung Astrid。若き日の作家を映像化し、1920年から、1931頃、結婚相手となるステューレ・リンドグレーンに出会うまでを描いています。いまよりさらに女性が生きづらい時代を過ごした若いアストリッドの姿に胸を打たれます。
日本の著名人が「超有名作家の出世スゴロクのような話」とか「児童文学の名匠が抱える意外に生臭い性愛の闇と母性の焦燥」とかの感想を書いています。人、それぞれの感想だとはいえ、映画には「出世双六」もなかったし「性愛の闇」などはありませんでした。ただ自分の脚で立とうともがくまっすぐなアストリッドが姿が描かれているだけです。
アストリッド役のアルバ・アウグストは、若い女性の細かな感情の揺れを驚くほど表情豊かに演じています。里親役デンマーク女優、トリーネ・ディアホルムは、罪悪感に苛まれる若い女性に「あなたは正しい」と言い生きてゆく力を与えます。
監督はデンマーク人で、クリステンセン(女性)さん。監督もリンドグレーン作品を読んで育った人のようです。尊敬と真心に満ちた映画になっています。
映画館は年配者を中心に80%くらい埋まっていました。パンフレットは作品研究なども含めて6編の文章が納められています。なかで細谷亮太さんという、小児科医で俳人の書いた文章があり、「息子ラッセを演じた子役の坊やの百日咳の症状は完璧でした」と小児科医らしい観察で結んでいます。