第4回 神楽坂のとんかつ会議

インターネットの「フェイスブック」で、仲間二人と「東京とんかつ会議」をアップしている。と言っても、「とんかつ」を議題に実際に会議を開いているわけではない。「フェイスブック」には2週に一回、東京のどこかのとんかつ屋さんを取り上げては、紹介しているわけだが、そのためには少なくとも週に1回はとんかつを食べないと追いつかない。

私は子供のころから大のとんかつ好きで、日曜日に家族でとんかつを食べに出掛けようものなら、食べる前からご機嫌な少年だった。東京生まれで下町育ちだから、生意気にも上野、浅草の名店は小さい頃からすべて知り尽くしていた。

後年、東京のすし、そば、てんぷら、うなぎと言った東京の郷土料理を食べ歩いてガイドブックを上梓したときも、とんかつとラーメンを加えて、毎日東京中を歩き回り、食べ歩いていた。その時、残念に思ったのが「とんかつ」の豚肉の質が以前よりかなり落ちていたことである。豚の餌になる飲食店の残飯が出なくなったというか、それを集める残飯屋さんがいなくなってしまったことが大きな理由のようだった。当時、豚肉より脚光を浴びていたのが牛肉で、日本各地のブランド牛が人気の的だった。

おそらく、養豚農家がこれを見て奮起したのではないだろうか。平成になってブランド豚が出荷されるようになり、評価が高まってきて、この頃から「とんかつ」が進化し始めた。戦後のとんかつブームが第1次とすると、いまは第2次とんかつ黄金時代と呼んでよい。

これを見逃してはならぬと、数年前に「東京とんかつ会議」を立ち上げたわけである。昭和と平成のとんかつの一番の違いと言えば、豚肉の質だろうか。とりわけ、脂身が透き通っていて、臭みがないこと。揚げものではあっても豚肉の旨味を味わいたいと、とんかつにはソースをじゃぶじゃぶ掛けまわさない。ソースはキャベツにかけて、とんかつはそのまま味わう。

その後にソースのかかったキャベツを頬ばるといった手順。こうすると、香ばしい衣に包まれ油で蒸し揚げられた豚肉が存分に味わえる訳である。それから、とんかつは和の惣菜だから、御飯、味噌汁、お新香も手を抜いてはならない。

「東京とんかつ会議」の3人は、とんかつをいただきながら「肉、衣、油、キャベツ、ソース、御飯、味噌汁、お新香」の8項目を厳しくチェックする。各項目3点満点でそれにポテトサラダとかカキフライであるとか、特別に評価したいものがあれば1点追加で、総計25点満点。3人がすべて20点以上の高得点を与えた店については、再び今度は3人一緒に出掛け、そこでやはり3人が20点以上の高い評価をすると「とんかつ殿堂」入りとなる。

「とんかつ会議」は議題に挙げた店へ各自が別々に出掛けるので、会議の開きようがないが、3人一緒に「とんかつ会議殿堂入り審議」と称してテーブルにつくときも、互いの意見が影響しあうので、「審議」と呼びながら、とんかつを分かち合いつつも、ほとんど話をしない。周りから見たら、とても異様に感じられるかもしれない。

神楽坂には「とんかつ殿堂」入りを果たした店が1軒ある。それが「あげづき」。出掛けたことがない方は、ぜひとも「とんかつ会議」の流儀で、召し上がってみてほしい。

やまもと・ますひろ
一九四八年東京生まれ浅草育ち。早稲田大学第二文学部演劇科卒業。卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としてデビュー。一九八二年「東京・味のグランプリ」で料理評論のジャンルを切り拓く。主な著作に「至福のすし すきやばし次郎の職人芸術」「イチロー勝利への十ヶ条」「立川談志を聴け」最新刊は「東京とんかつ会議」(共著)。