第四回 「ひとつの命」 ―それから―

神楽坂でペットといえば猫と相場が決まっているようですが、どうして、どうして、犬好きも負けず劣らず多く住んでいる街でもあります。朝晩、犬を連れて散歩している愛犬家の様子を窺うと、その種類は何であれ、一様にそれぞれの犬に対する愛情は並々ならぬものがあるように見受けられます。かく言う私は子供の時から動物を飼ったことが無く、いたずらに、また無責任に他人様の犬を見て、愛でているだけでしたが、何とこの夏、犬を一匹預かり、一時的に飼うことになりました。所謂「保護犬」です。理由は様々、飼い主による虐待や飼育放棄のほか、悪質なペットショップやブリーダーの不当な扱いから救い出された犬たちの呼び名です。彼らを救い出して里親を募集し、終生の飼育をお願いしている団体が幾つかあり、その中のあるグループの活動に賛同した家内が、八月にウスザワユージアムでその写真展を実施しました。その縁で犬を預かることになりましたが、驚いたことに、その牝のミックス犬(名前・ブルーナ)が一か月後に五匹の仔犬を生みました。いきおい、私の狭い仕事場に合計六匹の犬たちも同居することになり、彼らへの配慮が必要な場面となったのです。ギターの音出しなどその反応を心配したものの、幸い、音にも動じず平気な様子で寝ていて、心配が単なる杞憂に終わりホッとしました。ブルーナの見事な出産と育児の経緯は省きますが、命の神秘、不思議さに、今、心打たれているところです。とは言いましても、募集中の里親を十月中旬までに決め、その引き渡しが済むまでは、まだまだ安心はできません。

ところで、初夏のころより北軽井沢周辺でギターのライブ活動を行っている私ですが、つい最近、嬬恋郷土資料館で九月に開催される「お月見の会」という催し物への出演依頼がありました。この資料館では、浅間山の天明の大噴火で大きな被害を受けた嬬恋村(旧鎌原村)の悲劇的な災害状況を見ることができます。当日は、資料館のパノラマ展望室で、自作の「浜・巡礼」から祈りという曲、そしてバッハの無伴奏チェロ組曲第六番よりサラバンドなどを演奏する予定です。演奏に向かう際には、災害その他で亡くなられた方々への鎮魂の念を持って演奏することを常に意識しています。毎年、列島のどこかが災害に見舞われている日本ですが、災害では新事実に目を向けることはもちろんのこと、過去の事例には徹底して学ばなければなりません。そういう意味では、このような資料館のような施設の存在意義は大きいものがあると思います。加えて、三年前の東日本大震災からの復興もまだ道半ばのようで、私など隔靴掻痒の思いで見ているのが精いっぱいですが、それでも、たとえ個人の小さな活動でも、続けていくことが大事と気を引き締めています。近くに滞在中の知人の写真家は、3・11の大震災の後、福島で弱っていた犬を保護して引き取り、同居していたそうです。なかなか出来ることではありません。昨年夏にその犬の最期を看取ったと聞きました。人間に限らず、動物でも、悲しみの共有で救われることがあると信じたいものです。

10月に帰京してからは12月の神楽坂サウンドスケープの準備がありますが、その前に、10月18日の被災地報告会、11月1日のアトリエ・コンサート(婦人靴工房・ベルパッソ)を予定していて、何かと慌しい日が続きそうです。神楽坂サウンドスケープは無国籍でノンジャンル、しかも、個人・団体、そしてプロアマ問わない音楽イベントです。多くのミュージシャンのご参加をお待ちしています。

*「ひとつの命」―それから―は、CLUB WAGの保護犬写真展のタイトルです。

うすざわ・ゆうじ

1948(昭和23)年岩手県大槌町生まれ。銀座・ヤマハホールを退職後、ギター演奏、作曲、イベントオーガナイザーの他、音楽評論、文筆、郷土芸能研究、仏像蘊蓄士、日本楽壇将棋連盟常任理事、ウスザワユージアム館長(北軽井沢)。