第32話 新内節「いろは」考 第三章

•た 高い音域を駆使する新内

邦楽各流派は節も発声も異なり三味線の手も弾き方も違い、そこに特徴が生まれる。新内は高音を駆使して美しく官能的に煽情的にそして哀調切々と語り、聞く人の臓腑をえぐる様に訴え、また広い音域と音色にて優雅に豪快にと、三味線に合わせて語る浄瑠璃。

•れ 礼儀を覚える古典の世界 稽古と練習は違う

礼義正しいのが日本人の美徳。礼義作法を家庭や学校で教えなくなった。上下関係のみの行為ではなく対等な間でも礼節は弁えるのが大事。芸道、武道すべからく礼節より入り稽古に向かう。レッスンではない。修業、修行の道で技と精神を鍛えるのが古典の世界。

•そ それ程難しくないけど難しい浄瑠璃

前章に続く内容と言える。余り硬い事言うとお稽古を敬遠しがちになるが、稽古は楽しみをもってやるのも必要。浄瑠璃は《カラオケが唄えれば出来る》が私の持論で誰でも語れる。然し奥が深い。奥義は生涯果つるまで極める事はかなわない。だから苦しく楽しくそして辛い。

•つ 鶴賀若狭掾の初代が新内の祖

新内節の創始者は初代鶴賀若狭掾。出身は現在の福井県敦賀市で三百年前に生まれた。種々な変遷があり江戸へ下って宮古路豊後掾の門下となる。豊後節絶えた後に鶴賀節を創り新内節の祖となる。爾来二百五十年現在に至るまで脈々と伝わって来た江戸伝統三味線音楽。

•ね 猫と犬に感謝す

三味線の音の共鳴部分は胴と称し両面に皮が張ってある。三味線は約四百年以前に琉球から輸入された蛇皮線を改良し、皮を蛇から猫に変えた。また犬の皮も利用する。近年はこの皮が調達出来ずに代替として人工皮やカンガルーの皮が用いられているが、音色が犬猫に及ばない。

•な 習いごとは老化を防ぐ

平均寿命が延びている現在は、当然ながら心身とも老化して長生きする。歳を重ねても健康で生きたいもの。その為にも興味好奇心を持ち感動し、楽しく新たな事を覚えて脳を活性化させる。稽古が最適です。

•ら らん蝶(若木仇名草)は新内の代表曲で基本の曲

新内と言えばらん蝶、らん蝶と言えば新内で、初代鶴賀若狭掾の作詩作曲による新内の名曲。物語は三角関係から心中に至るまでの単純な内容。然し曲調がこれぞ新内の魅力溢れる曲。新内流しの三味線の曲はらん蝶から歌詞を除いて作られた曲。然し新内流しは新内にあらず(後述)

•む 無駄は有ってよし 無くてよし 

稽古・努力・苦労等に限りなく無駄と思われる時間を費やす。稽古は古典の曲をただ覚えるのみにあらず、習い覚えた先に修業が待っている。無駄と思われがちな自然との対峙が芸と心の滋養。呆けたような時間が後の緊張と集中力と創造力を生む。無駄を無駄にさせず無駄を生きる。 

•う ウレイがかり

各々の浄瑠璃の曲の中には節のパターンが多数ある。役節と呼ばれて名前が付く。物語の中の適材適所で用いる。新内節の内で最も多様されているのが「ウレイガカリ」である。これからの愁いある節に掛かる場面で、聞かせ処で使用する。三味線の手は同じ、節の心根が違う。

•ゐ 胃と肺と頭部が声の共鳴腔

声帯より発する声に共鳴を与える空洞。咽頭・口腔・鼻腔は小さな部所。それに加えて胃と肺と頭部が増幅し、極端に言えば身体全体に共鳴する。身体全部が楽器。頭声は高音、胸声は低音。そして腹筋、背筋、横隔膜は重要な筋肉。

つるが・わかさのじょう

昭和13年神楽坂生まれ。平成12年新内の始祖である鶴賀若狭掾の名を襲名。新内協会理事長。翌13年重要無形文化財保持者(人間国宝)。世界40カ国60都市を訪問。新宿区名誉区民。

神楽坂交響楽“談”アーカーブ

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