第28話 北欧の美女大国「バルト三国」

バルト三国と聞いても何処に在り、どういう国かを知らない日本人が多いと思うので、三国の位置や国の説明を簡単にしておきましょう。

バルト海に面して北からエストニア・ラトビア・リトアニアで、三国とも大方面積が同じ小国で、高い山もなく殆ど平地で最高で三〇〇メーターである。各国とも第二次世界大戦中にソビエト連邦に占領されていたが、一九九一年に其々が独立した。似たような国だが各国の民族も歴史も言語も文化も異なる、が共通している一つは美女が多い事? 余談ながら男女の比率が女性一〇〇人に対して男性が八五人と、男性が美女と結婚するのに有利と、大変に羨ましい国である。

三国での公演は北のエストニアから入った。この国はフィンランドに近く言語も習慣もその影響を受けているようだ。首都のタリンでの公演から始まる。世界遺産の旧市街で大学生に車人形と新内のワークショップ。どこの国でも生徒は興味津々で熱心に講義を受けていた。

本公演は三国とも主演目は「佐倉義民伝の甚兵衛の渡し場」と「八百屋お七」の二曲。各国とも言語が難しく残念ながら日本語での公演となった。「佐倉宗吾郎」は掟を破って船頭の甚兵衛が、宗吾郎の為に命を掛けて舟を出すというストーリー。農民の困窮に立ちあがった義民の崇高な精神は人類共通の美談。殆どセリフ劇であったが、人形での芝居仕立てであるので判り易いようであった。「八百屋お七」はお七が鐘を鳴らす為に鐘楼に登って行く人形のからくりが見せ場で大いに喜ばれた。セリフが多いので今回は俳優の近藤洋介氏(鶴賀伊勢洋太夫)に脇を語ってもらった。その為一層分かり易かったと思う。お次はラトビアの首都リガに入る。旧市街は大変素敵な街並みである。

石畳を敷き詰めた世界遺産の街路地で小パリとも云われる。料理は洗練されており洒落たレストランが多い。当時の駐ラトビア日本大使の長内閣下ご夫妻が素敵な方で大変お世話になった。夫妻のご厚意で翌年再びリガ公演をする事となった。それ以降懇意となり今日まで続いている。

リガはまた尋ねたい場所で、永住したいとも思う魅力ある街でもある。

因みに二度目のリガ公演の演目は「日高川(安珍清姫)」「道成寺物」を日本舞踊と八王子車人形の組合せ。清姫が恋する安珍を追って日高川の渡し場迄来るが船頭が渡してくれない。そこで清姫は川へ飛び込み蛇となり龍となって川を渡りきる。凄まじい女の執念妄念の物語。

さて最終地はリトアニアの首都のヴィリニュスである。当地と日本は誠に縁が深いものがある。それは先の大戦でナチに迫害され逃れて来たユダヤ人を、当時の領事の杉原千畝が外務省の訓令に反してビザを発行して救った事件。その勇気ある行動が今尚世界の人々から尊敬されている日本人。ビザを得たユダヤ人は遥々と大陸を横断し日本海を船で渡り、福井県の敦賀港に着いたのである。この命を賭した人道支援は何とも誇り高い日本人の美談。この地で公演する機会を得て感謝しつつ、全員で心を込めて公演した。駐リトアニア日本大使閣下と一緒に、敦賀市の市長から頼まれた手紙と土産を持参してヴィリニュフ市長を訪問した。同市と敦賀市は現在も友好関係の深い都市関係にある。

多くの市民の皆さんに公演をご覧頂き、また違った意味合いの感動を出演者全員が受けた。特産の琥珀を土産に数個購入して想い出とした。

三国とも過酷な永い歴史を辿ってきているが、みな祖国愛強く、団結力固くそれ程豊かではない経済事情の中で人生を謳歌していると強く感じた。芯の強さがあってこそ真の美男美女は生まれ育つのかも……。

つるが・わかさのじょう

昭和13年神楽坂生まれ。平成12年新内の始祖である鶴賀若狭掾の名を襲名。新内協会理事長。翌13年重要無形文化財保持者(人間国宝)。世界40カ国60都市を訪問。新宿区名誉区民。

神楽坂交響楽“談”アーカーブ

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