第二十回 ワインの街ボルドー、新内に酔う

あまり変化のない田園風景の中、快適な車中でボルドーへ到着。ホテルは駅の近くで便利は良いが、部屋も設備も従業員もパリと同じ程度のホテルでもう慣れた。ボルドー市には路面電車が市内を走っているので、移動にタクシーを使わずに便利である。

世界に名高いワインの街であるボルドーへは美味しいワインが飲みたくて来た訳でもないが、大いに期待はして来た。当然ながらその前に演奏公演が控えている。

市街地から車で三十分程の場所にある会場は、どちらかと云えば若者向けの公開スタジオステージで、日本の古典芸能には向かないかなという感じであったが、それも面白い雰囲気であった。ここは日本大使館の紹介の公演で、書記官が同行してくれたのだが、実際には当地の総領事が動いての開催であった。が、その総領事が日本の古典芸能に興味がないせいか、知識と理解がないようであった。今後の日本文化交流の窓口として問題かなと思われる。終演後のカーテンコールの後、質問が多くあるのはいずこも同じである。新内の説明や演目の解説はプログラムに掲載して渡してあるので余り質問はこない。ただ若者が「落語は知っているが新内との違いは?」と聞かれた。いささか困ったが新内は音楽であるという点から説明した。また三味線に興味を示す。それと踊りの衣装にも目を見張るようだが、当地は日本の芸能には殆ど出会わないので、物珍しさが先行して感動するまではいかないと思う。翌日は待望のワインのシャトウ廻りのバスツアーに参加し2軒のシャトウに案内された。余り期待した程ではなく、やはり5大シャトウに行くべきだったと皆の結論であった。その夜は今回の総仕上げの最後の晩餐で、下見で来たフランス料理店「ガブリエル」へ。ここの料理とワインは、満足して舌鼓を打った。然しまだこれでは終わらないのがフランスの良いとこで、ボルドーからの帰路、ドゴール空港までは新幹線のTGV利用。これがまた大変な思いをした。まったく日本では考えられない事で、列車の入ってくるホームが決まっていないのである。全員がスーツケースと手荷物を抱えてホームの地下道で待機をしている。列車は遅れるし、進入して来る直前にホームが判ると、大急ぎで上がるが、今度は乗る車両が分からない。大きな荷物を持って右往左往して捜す。駅員も見つからないし、焦った事あせった事。若い連中でさえ汗だくで、このいい加減さに私は血圧が上がった。またフランスの悪口になった。 

まあ大方何処の国でもこの程度が当たり前で普通である。日本が几帳面で親切で優しく礼儀正しく清潔で神経質過ぎるのかな。そして便利すぎるのかな…。そして食べる物も美味しすぎるのかも。ある程度いい加減な方が生き易いのかも。快適になり過ぎるとそれが当たり前になり、少しの不便さやいい加減さに対応出来なくなる体質になって、身体と心が軟弱な感覚構造になるのかも…と思った。

でも大らかさも程度があるけどなあ…それにつけてもやはり日本は素晴らしい国だ。

何かと云うと世の不平不満ばかり口にする日本人がいるが、総合点を付ければ日本は世界一素晴らしい国で、そして優秀な国民である事間違いないと確信し、私は大いに誇りを持つ。そう感じながら常に日本へ戻って来る。

愛する日本は良い国だ、海外は辟易だと疲労度高く帰国。

でもまた海外公演には行きたくなる。これも間違いない。

つるが・わかさのじょう

昭和13年神楽坂生まれ。平成12年新内の始祖である鶴賀若狭掾の名を襲名。新内協会理事長。翌13年重要無形文化財保持者(人間国宝)。世界40カ国60都市を訪問。新宿区名誉区民。

神楽坂交響楽“談”アーカーブ

  • facebook
  • twitter
  • 旧かぐらむらサイト