第二十一回 文化庁の文化交流使の海外派遣 伝統と誇り高き英国 EU離脱以前のUK

文化庁が芸術家や文化人等、文化に携わる人々を文化交流使に指名し、世界の人々に深く日本の文化を理解していただき、外国人とのネットワークの形成・強化につながる活動を展開することを目的とする事業がある。

ジャンルは多岐にわたり古典芸能全般、洋楽、作家、囲碁将棋、書家、華道茶道香道、庭師、左官、染色家、太鼓に津軽三味線等々と様々である。その文化交流使に私が平成二十一年に指名された。私は海外公演で世界各国を廻っているので、その経歴から選ばれたのであろう。

期間は一年間、半年間、3ヶ月間があり、世界中の何処の国でも大方選べるので、私はイギリスに決め期間は1か月半の派遣にした。

現在はEU離脱に揺れるイギリスに決めたのは知人の娘さんが、ロンドン大学留学中であったことと、また自分も以前から行きたかったからであった。

然しその準備は短期間の中で滞在中の宿、訪問先の学校との折衝、交通手段等は全て個人で行う。これらの活動は文化庁はノータッチ、全て交流使の裁量で準備するのである。幸いにその娘さんが日本人の女性コーディネーターを見つけてくれ、滞在中の間ずっと雇うが、当然ながら有料である。期間中の活動は全てお世話になり、彼女を雇わなければこの事業は成立し得なかった。その上お弟子の鶴賀伊勢笑(アメリカ人)と鶴賀伊勢繁も自費参加してくれて、鶴賀伊勢吉を含め総勢四名の総結集のプロジェクトであった。今回の仕事の主はワークショップであった。そのために日本から稽古用三味線を3挺持ち込む。三味線は3部分(正確には4個)に分解出来るので、撥と一緒に大きなダンボール箱に詰めて日本から送った。

同行4人で自分が弾く三味線と荷物とダンボールを持って、レンタカーが移動手段。ロンドン市内を本拠地として訪問先はイングランド、スコットランドそしてアイルランドも廻った。イギリスは右ハンドルの左側通行であるから車を運転出来た。不案内な道路を地図頼りに、まあよく四千キロも走ったものだ。訪問先は小学校十校、大学六校、日本人学校、ハンディキャップ校の十八校を廻った。内容は他と大方同じで、新内演奏とレクチャー、ワークショップと質疑応答である。浄瑠璃(唄)は短時間ではとても無理。特に言葉の壁がある。その点楽器は誰でも楽しく扱えるので三味線を弾かせた。三味線はその都度、繋いだり、ばらしたりと一仕事だ。一人一分程度の持ち時間なので、音を少し出す程度だが、皆興味津々で撥を持たせると熱心、珍しい音が出るので楽しいのだろう。また私が浄瑠璃を語ると目を丸くしたり、キョトンとした顔で聞いていた。

最後の質疑では小学校も大学校も中身こそ異なるが、興味を持って物怖じせず積極的に熱心で質問が多い。時間オーバーは毎度の事であった。ただ音楽性としてはどう捉えているのかは疑問。そして三味線の棹の木は何でしょう?三味線の糸は?撥は?等の説明はするが、問題のクエッション「皮」は何が張ってあると思いますか? と私から尋ねる。

「牛」「馬」「兎」等の答えが出る。欧米は動物愛護が強くその上家庭で家族同様の生活をしているので、この皮は猫や犬とは言いにくい。その時は学校の先生に判断をしてもらう事にしている。「この皮は猫です。犬も使用します」と説明すると一様に「ワー、キャー」と、驚く生徒、しかめっ面する子がいる、日本の子も同じ、三味線を知らない子が多いから。

この交流使公演の十八校訪問した中から特に印象に残り、楽しく面白くかつ感動した演奏会等の幾つかを次回にご紹介したいと思う。

つるが・わかさのじょう

昭和13年神楽坂生まれ。平成12年新内の始祖である鶴賀若狭掾の名を襲名。新内協会理事長。翌13年重要無形文化財保持者(人間国宝)。世界40カ国60都市を訪問。新宿区名誉区民。

神楽坂交響楽“談”アーカーブ

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