第三回 童曲 ―子供のための箏曲―

夏休みとなり、あちらこちらで子供のための音楽会や親子向けの音楽会など、さまざまな企画が催されているが、これらは少しでも多くの子供たちが音楽に親しめるようにとの思いからであろう。そして、宮城道雄も「童曲」という子どものための箏曲を作曲したのである。

宮城は童曲作曲の動機として、小さな子供がお箏を習い始めるのにふさわしい曲の必要性を挙げている。もちろん江戸時代から、初心者用の手ほどき曲があることはあるのだが、ただ、それらは必ずしも子供向けではなかった。たとえば、《岡崎》は昔から手ほどき曲として有名で、箏・三味線の楽譜集としてはもっとも古くに公刊された『糸竹初心集』(一六六四年)にも載っているのだが、その歌詞が、

〽岡崎女郎衆、岡崎女郎衆、岡崎女郎衆は、良い女郎衆

というのでは、教育上、よろしくないというわけである。そこで、大正六年(一九一七)に作曲された《春の雨》以後、宮城は百十七曲の童曲を作曲したのである。

童曲を演奏する宮城道雄(宮城道雄記念館蔵)

ところで、昭和五年(一九三〇)に現在のNHKラジオに当たるJOAKとJOBKから放送された箏曲講座の講師を宮城は担当した。かつてNHKテレビで放送されていた「ピアノのおけいこ」などのようなマスメディアによる楽器講座の先駆けである。この番組は三十分で、八月二十五日から十二回にわたって放送されたが、ここで宮城はまさに童曲を講習し、大好評を博した。七年、九年、十二年、十六年と、その後も内容を変えつつ放送されたほどである。そして、毎回、講習曲の楽譜をもとにテキストが作成されたが、宮城はこのテキストをさらに練り上げることで、『宮城道雄小曲集』という非常にシステマティックな教則本、つまり箏の入門練習曲集を作り上げた。いまだにこれほど完備した箏の教則本はなく、現在もなお使われ続けている。

『宮城道雄小曲集』

さて、こうして箏の手ほどき曲として作曲された童曲ではあったが、やがてステージでの演奏、さらにはレコード化されて、鑑賞用の音楽としても楽しまれるようになった。宮城もそのことを意識して、《お宮とお寺》では箏で木魚の音をまねたり、《ワンワンニャオニャオ》では胡弓で犬や猫の鳴き声をまねたりと、聴いて楽しむ音楽としての工夫を凝らし、それらは、実際、聴衆に大いにウケたのである。ある演奏会では、初めは堅苦しい雰囲気だった演奏会場が《ワンワンニャオニャオ》の胡弓による突然の犬の鳴き声で一変して、笑いの渦、嵐のような喝采で場内が沸いたというエピソードも残っている。

ちば・ゆうこ

東京生まれ。宮城道雄記念館資料室室長。慶應義塾大学ほか講師。『日本音楽がわかる本』(音楽之友社)、『ドレミを選んだ日本人』(音楽之友社。第二三回ロゲンドルフ賞受賞)ほか著書論文多数。