第四回 自然を描く

虫の声が聞こえるようになり、すっかり秋の気配となりましたが、《春の海》でおなじみの宮城道雄も、《秋の調》や《秋の初風》など秋をテーマにした作品を十五曲以上も作曲しています。そのほかにも《吹雪の花》や《奈良の四季》などの作品があり、宮城自身、「自然が何より好きで、自然を扱った曲が多い」と語っています。随筆にも自然を愛でるものが多く、「四季の趣」「冬の幸福」「春のさまざま」「夏の音」「秋のおとずれ」など、視覚を失った宮城が聴覚や触覚によって日本の四季を独特の感性で描いた作品が数多くあります。随筆「音の世界」では、「自然の音はまったく、どれもこれも音楽でないものはない。月並みな詩や音楽に表わすよりも、自然の音に耳をかたむける方が、どれだけ優れた感興を覚えるか知れない。」と記し、自然を畏敬していたようにさえ思えます。

昭和27年7月29日、BBCより放送(宮城道雄記念館蔵) 

こうした宮城の自然をテーマに作曲した作品によって構成されたCDが、『宮城道雄作品による 日本の四季』(日本伝統文化振興財団 vzcp−1140)です。《春の海》に始まり、八月に利根川上流に遊んだ時の印象をもとに作曲した箏と十七絃による《瀬音》、箏独奏曲の《風鈴》と《線香花火》から構成される《夏の小曲》、箏・三味線・十七絃による《落葉の踊り》、そして、雪・霰・霜など水の千変万化する様子を描いた処女作《水の変態》と、宮城のさまざまなタイプの作品が収録され、さらに、特典トラックでは、《春の海》の作曲やルネ・シュメーとの共演にまつわるエピソードなどを、彼自身が文化放送やNHKラジオで語った肉声も収録されていて、ベストアルバム的なCDといえましょう。

『宮城道雄作品による日本の四季』

また、十月二十五日、午後一時半からは、宮城道雄記念館で「神楽坂まち飛びフェスタ2014参加企画」として、こうした作品を聴くことのできる演奏会もあります。ここで演奏される箏独奏曲の《ロンドンの夜の雨》は、宮城がユネスコの国際民俗音楽舞踊祭に日本代表として参加するために渡欧した際、ロンドンのホテルで作曲し、BBCから放送初演したものです。一晩中降り続く雨の音、濡れた路面を走る車の音に感興を覚え、高い建物から伝わり落ちる雫を銀の珠と想像した宮城が作曲した珠玉の名品です。

秋の午後、宮城道雄の詩情あふれる名曲を生演奏で、そして、秋の夜長にはCDで楽しんでみてはいかがでしょうか。(お問合せ先 tel 03-3269-0208)

ちば・ゆうこ

東京生まれ。宮城道雄記念館資料室室長。慶應義塾大学ほか講師。『日本音楽がわかる本』(音楽之友社)、『ドレミを選んだ日本人』(音楽之友社。第二三回ロゲンドルフ賞受賞)ほか著書論文多数。