第六回 鞆の浦と景観訴訟

都内で様々なマンション紛争などに関わっていた中で、平成19年知人の弁護士から誘われて弁護団に入ったのが鞆の浦の埋め立て差し止め訴訟でした。鞆の浦は広島県福山市にあり、万葉の頃から潮待ちの港として栄えた所です。この美しい港町の港を埋め立てて道路を通そうという計画が持ち上がり、地元の人たちが埋め立ての阻止に立ち上がったのがこの訴訟です。広島県と福山市が港湾(公有水面)の埋め立て許可を申請したことに対して、許可を出すことの差し止めを求めて提訴しました。この裁判では、鞆の浦の美しい景観を破壊するような埋め立て行為が問題になりましたが、行政訴訟には様々な法律的な壁があります。一番問題になったのは、港の周辺に居住している人が、埋め立てで景観が阻害されることを理由に裁判を起こす権利(原告適格)があるのかという点でした。

そもそも日本では景観が破壊されたとしても、裁判所に救済を求めるような権利はないというのが法律家の常識でした。この少し前に国立のマンションを巡る民事訴訟がありました。東京地裁は、景観を侵害する建築物の撤去を認める画期的な判断をしましたが、高裁はこれを否定しました。最高裁は結果的に撤去請求を認めませんでしたが、景観は個人の法律上の利益であるということを初めて認めました。この判断を踏まえて鞆の浦では、住民が持っている景観の利益が侵害されることが行政訴訟における裁判を起こす権利の根拠になると裁判所は判断しました。その上で埋め立ての当否の判断に際しては、景観についても十分に配慮しなくてはいけない、それを怠った埋め立て許可はしてはいけないという判断をしたのです。

残念ながら、民事的には、国立マンション事件の最高裁判決は、景観利益の侵害が違法になる場合を大変厳しく限定しています。その結果、それ以降景観の侵害を理由とした請求を認める民事事件の判決は出ていません。

しかし、鞆の浦では、景観の侵害を裁判を起こす権利の根拠とした上で、埋め立て許可の判断の際の重要な要素とすることで、行政訴訟として差し止めを認め、花開いたのです。

鞆の浦の美しい景観

弁護士として、いろいろな裁判に関わっていると、当該事件において裁判に勝つことが一番重要ですが、結果的にその裁判で勝つことができなかったとしても、そこで示された裁判所の判断が次の事件において生かされることがあります。また、裁判まで起こして問題を世に問いかけた住民の意識は地域の心意気として伝わります。

そういう意味では、神楽坂が超高層マンション等を巡りいくつも法的係争や社会的な訴えかけをしてきたことは、神楽坂の意気込みとして社会に伝わり、これからも受け継がれていくでしょう。これからもそういった問題が起こったときには、地元の法律事務所として、地域の皆さんと一緒に取り組んでいきたいと思っています。(了)

ひおき・まさはる

1956(昭和31)年三重県生まれ。1982年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2008年神楽坂キーストーン法律事務所開設。2014年現在立教大学・早稲田大学法科大学院講師。自治体の委員など多数。