第三回 路地と法律 ―法律は何のためにあるのか―

法律は守るべきもの 常識ある社会人ならそう思うのは当然だし、これが成り立たないと法治社会は崩壊してしまいます。でも、いろいろなところで法律と現実の両方を見てくると、そう言えない場面にも結構出会います。路地の存在もそういうところがあります。

神楽坂にたくさんある路地を素材になぜ法律を守るべきかを考えてみましょう。

日本の法律では道路は原則4m以上の幅が必要とされています。町には安全性が必要であり、そのためにはある程度広い道路がないと、火災などの時に消防車が入れなかったりして危険であるという考え方がその前提にあります。

もっとも、日本の町並みの多くは狭い路地に依存して成立してきたことから、4m以下の路地を否定すると多くの町が成り立たなくなるので、法律はいろいろと例外の規定を設けてこれを救済してきました。4m未満の路地であっても一定の条件のものは道路扱いをして建築を認めています。その一つが建築基準法42条2項による道路で、俗に2項道路といわれていますが、神楽坂の路地の多くがこれに該当します。

一応2項道路は法律が認める道路なのですが、あくまでも例外なので、将来的に4mの本来あるべき道路にすることを想定して、建替の際には4m幅まで前面空間を空けておくことなど制約がついて回ります。このため、2項道路の制度をそのまま適用していくと、狭い路地からなる神楽坂の町並みはいずれ失われてしまうことになります。

こういった状況でも法律があるからやむを得ないこととして受け入れていかなくてはいけないのでしょうか。

普段、法律が何を守ろうとしているのかまでさかのぼって、いちいち判断する必要はありません。決められた法律があり、それを守ることで問題が生じないのなら、それでいいのです。

しかし、現実と法律が衝突し、法律通りの運用では支障が生じるような場合には、この法律が何を守ろうとしているのかというところまでさかのぼって考察することが必要になります。

神楽坂の路地はまさに今そういう問題が問われるべき状況にあります。

戦後の日本は近代的な都市をあるべき姿として、道路は最低でも4mを原則とした法体系を作ってきました。

しかし、成長が止まり、歴史や文化を改めて評価する時代になり、あるいは防災や耐震などの技術が進歩したことから、無理に道路を4m確保しなくても安全が確保できる手段があればいいのでは、4mの道幅確保よりも歴史的に形成された町並みの方が大切ではないかという60年前とは異なる価値観も大きくなってきています。

どんな問題でも置かれた社会の状況は常に変化しています。

こういうことを考えると、法律というものは無批判に守ればいい存在ではなく、その法律を通して社会が守ろうとしているものは何かを問いかけ、現在必要とされる状況から今の法律がずれていると考える場合には、法律そのものを改正していくことが必要だということがわかるかと思います。

ひおき・まさはる

1956(昭和31)年三重県生まれ。1982年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2008年神楽坂キーストーン法律事務所開設。2014年現在立教大学・早稲田大学法科大学院講師。自治体の委員など多数。