絵本によるメッセージ 第15回 雨が描く表情をえのぐ遊びに託してみる…

この号では、二〇〇〇年前後に出版された私の対照的な二冊の絵本について書いてみたい。一つは感覚的な表現でとらえた幼児向けの雨の本。他の一つは出発からゴールまで、赤鉛筆と青鉛筆の二人が、世界の動物を巡る旅に挑戦、それぞれ一続きの線描きで表現したもの。

絵本『あめかな』 福音館書店

ざあ ざあ ざあ ざあざあ あめ

〇才から二才向けに雨を描いた絵本であるが、傘を差し、レインコートを着せて遊ぶ類いのものではない。降る雨や雲、変化する大気の状態を身近に感じてもらう一冊である。

頁を開くとにわかに空が暗くなり、ポツリポツリと雨が落ち、次頁でびしゃ、ばしゃと大粒の飛沫に驚く。頁が進み、本格的に降り始めた数十条の雨の列を正面に見ながら、地に跳ね返る雨粒の現象も観察。やがて渦を巻き地に吸い込まれていくかたわら、霧状になった雲は美しい水色のグラデーションをつくって静かに消えていく。かつて子供の頃、栃木の田舎で出会ったどしゃ降りの後の空の光景が忘れられず、この一頁にも再現できるだろうことを願っていた。雨後によみがえった大地はぬくぬくと草木を育み、色の気配をあたりに漂わせつつ、一面に花を咲かせる。こんなストーリーの展開で幼児の目や手に感覚的アピールしてみたかった一冊である。

とは言え粗筋通りに様々な雨の現象をどのように見せるかが大きな問題。そこでかつて仕事の合間に試みた絵具遊びのあれこれを思い出し、リアル感のある雨の表現にもきっと応用できるだろうことを確信する。

まずはカラーインクの大き目の一滴を白紙の上に垂らして紙を立てれば、一筋の細い流れが下方に走る。隣り合わせに同じことをくり返していけば、さながら列をなして降る雨を見るようだった。この遊びを基本にして雨や雲がつくる様々なシーンにも挑戦。カラーインクに水をさすサジ加減、流れを制御する紙面の角度など、あたかもお天気の調理人になった気分で、私は朝から晩までアトリエに籠って楽しんだ。

ぱあっ ぱっ ぱぁ はなだ

お蔭で現実に降る雨や霧にはほど遠いものだろうが、幼児たちの目や皮膚には実感できる表現に近づけたことを喜んでいる。

絵本『あか あお ふたりで』 福音館書店

ぱたぱた ぱたっ なかまが ふえた。

赤色と青色、二色の色鉛筆がそれぞれ一筆書きで綴る自然を巡る旅の本。ぐるぐるーっと輪を描くウォーミングアップに始る二人の線の旅は、重ならず交差しつつ、雲を描いては空に舞い、翼を拡げて群をなす。やがて海に下り静かに泳ぎ、イルカになって波を飛び、ペンギンに変身する。陸に上がれば犬とたわむれ馬を追う。馬は群をなして大地を走りつつ鹿に変身、起伏をのぼれば兎に先導されて森の中へ。奥深く進むと、あたりは漆黒の闇。多数のこうもりがばさばさっと飛び交う先に、夜の支配者ふくろうの目玉がギロリと光る…。こうして楽しかった自然界を巡る二人の旅は終りを迎える。日記をつけ続けてきた赤青二人の鉛筆もすっかり短くなったが、楽しかった旅を共に喜ぶ。

びゅーん ざっぷん なみを とび、

わずか二十八頁の短い絵本の旅をよどみなく描けたことは、描く素材の赤・青のマジックペンがなめらかに紙面を滑って、旅を一気に描くことができたからであろう。

因みにこの絵本は、私の愚息、ダイノ・サトーのアニメーションにもなり、各地の美術館でも上映されている。

ゆー・じー・さとー

1935年神楽坂生まれ。東京学芸大学中退、桑沢デザイン研究所卒業。デザインファーム代表。世界四大ポスタービエンナーレ(ブルノ、ワルシャワ、ラハチ、モスクワ)のいずれでも金賞受賞。著書に「U・G・サトー」ggg Books 36、「富士山うたごよみ」俵万智と共著、「あめかな」、「しまうまのさんぽ」など。いずれも福音館書店。