第四回 弟子入りと卒業

大学の卒業式の翌々日、鶴澤寛八師匠に入門するため大阪に引越ししました。

寛八師匠はずっと「女は結婚して家庭に入るのが幸せや。三味線なんかやらんでええ」とおっしゃり二年ほど弟子入りを許して下さらず、お願いし続けても埓があかなかったので、「とにかく大阪に参ります!」と宣言してしまいました。そうしたらしばらく経ってから、今は解散してしまった大阪の(財)人形浄瑠璃因協会に登録をしないか、と言って下さり、つまりはそれが入門のお許しだったわけですが、前年の十二月にとりあえず弟子として登録だけしてしまい、あとは卒業してから来なさいという感じでしたのでそのようにさせていただきました。

卒論はゼミ生みんなで一つのテーマを項目別に書くことになっていました。タイトルは「四次元のトポロジー」。そうです。前号でもちょっと触れましたが、私は数学科で幾何専攻だったのです。真面目に勉強してきたゼミの人たちに迷惑はかけられませんので、共同卒論から外してもらい中退して大阪に行くつもりが、あまりにゼミの子が熱く止めてくれたので、急遽予定を変更して卒論を書きました。数日ほとんど寝ないで書き続け、とりあえずOKは出たものの、私の担当部分だけ超低レベルであったに違いなく、本当にゼミのみんなには申し訳ないことでした。

初舞台前のあるイベントの楽屋で。右 鶴澤寛八師匠、左が私(C)新潮社

卒論を出したとはいえ成績不振きわまりなかったので、留年かもしれないなあと思っていたところ、なんとか卒業証書をいただき晴れて大阪へと旅立つことになりました。ちょっと不思議だったのですが、謝恩会で先生方からお話を伺い冷汗ものでした。実はお正月に朝日新聞に大きく「女子大生、女流義太夫へ」みたいな記事が載ってしまい、卒業認定会議でその話題が出て、「これじゃあ落第させても中退するだろう。いいから出しちゃえ!」ということだったそうです。正直申せば、当時は、「芸人になるから、学歴なんて必要ないのに」と思っていたのですが、大阪でも修行の傍ら、知人の娘さんなどの数学の家庭教師をしてお小遣いを稼ぐことができたのも数学科卒であればこそ、のちのちとても感謝することになります。

今後の主な予定

「国立劇場開場50周年記念邦楽演奏会」

2016年10月9日(日)13時 国立小劇場

「ひらかな盛衰記」神崎揚屋の段 人間国宝竹本駒之助師匠の浄瑠璃、三味線鶴澤津賀寿さん、私はツレ弾きで出演。50周年ならではの豪華な番組で、神楽坂にお住まいの人間国宝・新内節の鶴賀若狭掾先生もご出演です。

「静月会~和を愉しむ夕べ vol.5」

2016年10月25日(火)19時 日本橋コレド室町3内 橋楽亭

上方舞・山村流の山村若静紀さんの会にゲスト出演。演奏とトークがあります。若静紀さんは大阪在住ですが神楽坂にも稽古場を構え、東京ご一門のおさらい会会場は志満金さん、また万弥さんではよくお惣菜を買うとか。知り合ったのは神戸で内田樹先生のご縁だったのですが、偶然稽古場同士も徒歩4分くらい、東京でも共通の知り合いが多く驚いています。

つるざわ・かんや

1984年、鶴澤寛八に入門。1993年、豊澤雛代の預かり弟子。2007年、鶴澤清介の預かり弟子。2009年、重要無形文化財総合指定保持者認定。伝統芸能ポーラ賞奨励賞ほか受賞多数。京都造形芸術大学非常勤講師。
詳しくは http://tsuruzawakanya.com/