第六回 「神楽坂まち舞台」への心意気

昨年初夏、東京都から「神楽坂の街全体を会場にする伝統芸能イベントを考えているのだが」という相談を受けました。10月13日、5万人もの方々にご来場頂き大いに盛り上がったアーツカウンシル東京主催「神楽坂まち舞台・大江戸めぐり」の、最初の地元側への相談でした。

人間国宝の先生方による「神楽坂伝統芸能」や「落語まつり」「お座敷入門」等、確かに神楽坂の文化企画を様々手がけてはきましたが、それらはあくまでも神楽坂内部のイベント。少しでも外に広がればラッキー! 程度の気持ちでいましたから、まさか東京都のイベントを神楽坂でというお話があるとは驚きましたし、同時にこれまで常に「お金どうする?」で胃が痛くなる連続でしたから、正直「えぇ?予算があるところから始まるんですか」と冷静を装いながらも、正直期待に胸膨らんだのも事実です。

江戸から続く伝統芸能の数々を、これまで関心のなかった人たちにも広く知ってもらおうという趣旨から、閉ざされた空間ではなく「趣のある街角で親しむ日本伝統芸能の世界」として、神楽坂が最も相応しいと選ばれたのでした。東京の他の街も候補に挙がる中で選ばれたのは、正に神楽坂が文化を「まち」の暮らしや歴史の積み重ねの中で丁寧に育て続けてきたから。そして、それを今の時代の形にするのに相応しいヒューマンスケールで風情ある街並みを保ち続けてきたから。宝物を宝物として大事にしてきた神楽坂人の心意気(心粋)があったからこそ。

だから、地元との繋ぎ役をお引き受けした時、このイベントが地元の方々に心から喜んでもらえるもの、できるだけ地元の協力を得たもの、決して行政の上意下達で作られるイベントにしないことを肝に銘じようと思ったのでした。そして、私の心配は杞憂となるほど主催者であるアーツカウンシル東京さんには、出来得る限り地元の思いを最優先とするご配慮を頂いたのでした。

神楽坂通り商店会、6丁目の商店街振興組合、ラムラ商店会、各町会、毘沙門天、光照寺、赤城神社、あずさ監査法人等の皆様には会場確保や備品の提供、さらに広報等で地元パワーを発揮いただき、毘沙門天境内での「神楽坂楽座」邦楽ライブでは、「助六」の石井さんがアドリブも鮮やかに司会役を務めてくれました。「芸能めぐり」では、神楽坂通り5箇所の路上ミニライブに加えて、鶴賀若狭掾師匠社中による新内流しが路地界隈を巡り江戸風情たっぷり。歴史スポットを巡るスタンプラリー「神楽坂タイムスリップ」のコース設定やガイドの仕切りは着物姿も粋な山口則彦さん。マップと記念品手拭いデザインは、我らがデザイナーおかめ家ゆうこさんでした。そして、神楽坂には欠かせない芸者衆による「覗いてみようお座敷遊び」には東京神楽坂組合が全面協力で、これぞ神楽坂! のプログラムが完成しました。短期間でここまで地元パワーが結集できたのは、まさに神楽坂の底力以外のなにものでもありません。

準備中にオリンピック開催が決定しました。「伝統と先端が融合する神楽坂で、江戸情緒に包まれて粋でスタイリッシュな伝統芸能の魅力を」。これが薄っぺらなコピーじゃなくて、人々の暮らしの中で育んだ本物であり続ければ、6年後もその後も、神楽坂は東京を代表する魅力溢れる街であり続けるでしょう。それほどの素晴らしい街の矜持を持って、背筋をピンと伸ばして、これからも神楽坂のイベントは続いていくのだと、心底、改めて思うのでした。

ひおき・けいこ

横浜生まれ。神楽坂在住13年。NPO法人粋なまちづくり倶楽部副理事長。神楽坂まち飛びフェスタ実行委員長。㈱粋まち代表。