2016年2月 84号

神楽坂界隈にはあまり知られていないが、さまざまな職人の仕事場がある。料理、菓子、繊維、皮革、金属、染色等など。少し時代を遡れば、足袋、三味線、日本髪の鬘などの職人もいた。ところが長引いた景気低迷を経て神楽坂では、モノづくりが貴重な存在になりつつある。そこで本誌では、ひたすら技術・技能の研鑽に励んでいる「現代のマイスター」の仕事場を訪ねてみた。
(新宿区と東京都では、すぐれた技術・技能をもち、後進の指導にもあたっている職人に対して「マイスター」として認定している)
構成:編集部/撮影:田邊 美樹



花鳥風月の繊細な形と豊かな味

井上豪(「神楽坂梅花亭」)/平成26年度新宿ものづくりマイスター「技の名匠」認定

「神楽坂梅花亭」は、昭和10年に創業。戦前は新宿の十二社で、戦後は池袋で約60年、神楽坂では12年目にあたる。井上豪さん(44歳)は、その4代目。創業者の祖父は、90歳まで現役で、昨年105歳で天寿を全うした。井上さんは父が早世したために、祖父を師として菓子づくりに励んだという。その祖父がシベリア抑留中に考案したのが「鮎の天ぷら最中」。ふるさと越後での少年時代、母のつくってくれた揚げ餅の味が忘れられず思いついたという。当店の名物だ。井上さんは、中学生の頃から門前の小僧で、祖父の店で菓子作りを手伝ってきた。

平成26年度の受賞で、特に高い評価を得たのが、上生菓子(練きり)の「はさみ菊」。普通は大ぶりの球形だが、現代風に小さく仕上げる技にも卓越している。

和菓子は、自然界の形を表現したものが多く、花鳥風月を表す井上さんのレパートリーは、約200種類に及ぶ。繊細な造形は、芸術作品のようで食べるために形をくずすのが惜しい。学生時代に洋画を専攻したことが活かされているのかもしれない。繊細なのは、形だけではない。たとえば餡だけとっても、配合を変えて23種類もの餡をつくり分ける。通常では、3~5種類ぐらいの餡ですむところをである。職場では、現在8名の和菓子職人をめざす若い人たちの指導にあたり、厳しくも楽しい和菓子づくりの技術を伝えている。






「神楽坂梅花亭」
新宿区神楽坂6−15(本店)
新宿区神楽坂2−6(ポルタ神楽坂店)
☎03・5228・0727
1 2 3