2014年10月 76号

プロとアマチュアのちがい

長岡 神楽坂にはかつて漱石が通った「わらだな寄席」もあり、女義太夫のアイドル的な人気もあって学生も労働者も通い詰めたと聞いています。一方で落語の「寝床」の世界でよく知られている大店のご主人の義太夫は、小遣いをもらっても丁稚や女中は逃げ出したくなる。どうも、義太夫を知らない人にとって、イメージがちぐはぐでわかりにくいのですが。

鶴賀 あれは素人がやる義太夫の話だから。でも今でも、よくある話だね。

寛也 義太夫は難しいので下手なのが目立ってしまうのです。聴けるようになるまでに何十年もかかったりします。だから、からかわれる格好の題材になってしまうのです。しかも、義太夫をやろうという人は、熱い人が多いので、もう真っ赤になってすごく力がこもっちゃうんです。

鶴賀 本人は「があ~っ」とやって義太夫をやっている気になっている。

寛也 でも、昔に比べると上手なお素人さんが増えています。最近は、無茶苦茶はずす人が減ってきた気がします。

鶴賀 プロでも調子をはずす人がいるからね。

一同 (どっと笑い声)

鶴賀 人口の数で一番多いのは、この中でなんといっても日本舞踊で、特に花柳は全国区ですね。

貴比 日本舞踊自体が、プロとアマの境がわかりにくいかと。名取イコールプロではないので。花柳流に関しては、名取を取る時に普通部と専門部というのに分かれていて、専門部を取得すると自分の稽古場が出せ、主催公演ができます。歌舞伎役者さんは松竹という会社で興業を打って下さいますが、日本舞踊家はそういうシステムがありませんので自分で会を主催することが多いです。そういう会が主催できるかできないかが、プロとアマの違いといえるかもしれません。日本舞踊は古典芸能の中で一番身近なお稽古事として、広い年齢層の方々に寄り添っているのかも。

鶴賀 いま全国で花柳流だけで何人ぐらいいますか? 名取さんだけで。

貴比 たくさんいらしゃいます。

鶴賀 日本舞踊協会も大きくて立派だし、(資金は)潤沢ですね。発表会も多いでしょう。

貴比 日本舞踊協会主催公演や国立劇場主催公演といった公の公演と各自が主催する発表会やリサイタル等があります。リサイタル等は古典舞踊の他にそれぞれに思い踊りにする創作など、面白い舞台が繰り広げられていますのでお気軽に是非足を運んでみてください。

鶴賀 新内も、うちの親父も、皆弟子をとってそれが生活の足しになってやってきた。伝統芸能は、まず門戸を広げ、お弟子さんを増やさないと、プロとしても次の後継者がやっていけない。だから若手を育て、新内人口を増やさないと「プロになれ」とは言えないのです。

伊勢吉 私の場合、九年くらい前に教室をやりたいと思ったのですが、家賃を払ってまでやる自信がなかったので、師匠のお稽古場を月に何回かお借りして、それを私の教室としてもよいと師匠が言ってくださったので、なんとかやっています。インターネットで募集したり、人づてで来られたりして、今は十五人くらいが稽古に来ています。

寛也 私はやっと去年から月謝にしたんです。稽古に来なくても払ってくださいと。今までは、来ないと貰わなかったのですが、稽古場の家賃はしっかりかかってしまうので、それではやっていけなくなる。

伊勢吉 私は月謝ではなく、チケット制にしています。伝統芸能の世界でチケットは品格がないと言う方もいらっしゃるかもしれませんが、私はあまりこだわらないので。ですから、役者の修業をしている子は、一回ごとに二千五百円払っていく子もいますし、余裕のある年配の方はまとめてチケットを買ってくださる方もあります。ともかく気軽に習いに来てもらうのが第一歩です。うちの人間国宝の師匠に習うのはおそれ多く近寄ってこない子も、私の会には入りやすい。お陰様でこのあいだ私の名取りも六名できました。

寛也 すごいことですね。

鶴賀 伊勢吉のところは、二十代、三十代の若い人が多いから私の稽古場が明るくなったね。私の所は年寄りばかり……でもないか(笑)。

芸に対する考え方も資質である

長岡 二十代、三十代でOLなどの仕事をしている読者を想定してお聞きしたいのですが、入門してから皆さんのようにお弟子さんがとれるようになるまではすごく大変なことだと思うのです。そこで芸に打ち込めば打ち込むほど、一方で生活が苦しくなってしまう。そう考えている読者がいたとしたら、先輩としてどう助言をされるのか? 生活のことを言い出したらキリがないと思うのですが。

寛也 そのことが気にかかっているうちはプロにはなれないのかもしれません。あとになって「人間はもうちょっとお金のことも考えなくちゃいけないんだ、と思いましたが、そのことがわからなくなるほどのめり込んでいたので、この道に入ってしまったのだと思います。

鶴賀 いい話だなあ。芸の道に苦しみはつきものです。経済的なことや人間関係などの苦しみは、当たり前のもの。お金持ちになりたい人や、苦しい稽古がいやな人は、この世界に入らない方がいい。

寛也 ともかくいろいろと大変なのですが、意地で続けているわけではなくて、三味線を弾くのをやめるという選択肢がないだけという感じです。

長岡 あれもこれも選べるけど、損得で選べる所からものをいっているうちは、はじまらないですね。でも、本気でやろうと思う人はそうあってほしいですが、向こうから気楽にやってくる人に対して「あなたは本気じゃないからだめだ」とは言えない。両面をもって向かいあってやっているのですね。

鶴賀 昔からそれはあります。考え方もその人の資質です。でも趣味でやる人も大切なのです。

伊勢吉 新内の場合でいいますと、趣味でやっている人を増やさないとプロになる人もできませんから。門戸を広げるのが大前提です。弟子でもファンでも増やすことが一番です。

残念ですが誌面の都合でつづきは次号。どうぞお楽しみに!

本音で語る、伝統芸能入門〈後篇〉

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